第26回 「ゲノム編集トマト」の
本当に重要な3つのポイント

2021年2月12日

こんにちは、小島正美です。きょうはつい最近大きなニュースになったゲノム編集トマト、「シシリアンルージュ・ハイギャバ」の話をしましょう。
新聞でも大きく報道されましたが、残念ながら、記事では重要なポイントが不明確でした。そこで、大切なポイントを3点、解説していきます。

ママ美 私も新聞は読みました。毎日新聞1面(12月12日)は「ゲノム編集トマト流通へ 22年冬には食卓へ」の見出しでした。朝日新聞の1面は「ゲノム編集トマト流通へ」、3面は「ゲノム食品 普及未知数」の大見出しがありました。どちらも似た見出しですね。
2紙を読むと、筑波大学と共同でゲノム編集トマトの種子を開発したベンチャー企業「サナテックシード株式会社」が、12月11日に厚生労働省と農水省に届け出をし、トマトが世に出る道筋がいよいよ見えたことが、ニュースなのではないでしょうか。

正美 そこは確かにニュースなのですが、ゲノム編集トマトが2020年以降に流通することは、「安全性の審査が不要」と決まり、さらに「表示も義務化しない」と決まった2019年から分かっていたことです。
そんなことよりも、はるかに重要なことが新聞では詳しく書かれていません。

ポイント1:無償配布
トマトの苗を、消費者に無償で配布

ママ美 え!そうなんですか。それは何でしょうか。

正美 ゲノム編集トマトが、どういう形で世の中にデビューするかという点です。
誰もが、ゲノム編集トマトの種子の販売会社が、農家に種子を売る形で普及させると思っていました。ところが、11日の発表では、今回のゲノム編集トマトは、まず最初に家庭菜園用向けに一般の消費者に「苗を無償で配布する」というのです。これが一つ目のポイントです。

ママ美 消費者に苗をタダで配るということですか? 新聞を読んでも、そこは気づかなかったです。

正美 新聞にはほとんど触れられていませんでしたが、苗をタダで消費者に配るという点は、超ビッグなニュースポイントでした。
なぜなら、FOOD NEWS ONLINE 第15~17回でも詳しく解説したように、「どう普及させるか」はゲノム編集食品にとって大きな課題です。
第15回 https://foodnews.online/2020/08/16/post-162/
第16回 https://foodnews.online/2020/08/22/post-164/
第17回 https://foodnews.online/2020/08/30/post-169/

ここで、タダで配るとなれば多くの人が申し込むでしょう。そうすれば、ゲノム編集トマトに対する消費者の反応を知ることできますこの「無償配布」は、まずは消費者の反応を知り、その理解を得てから、社会に普及させていくという会社側の方針が見てとれます
すでに12月11日から苗の希望者をサナテックシード社のHPで募っています。種子は5万~10万個程度あるそうなので、来年5月ごろには、1人5株の苗がもらえそうです。私は早速申し込みました。

ママ美 たしかにタダなら、私もすぐに申し込みます。だって、どんなトマトができるのか興味があるから。

正美 想像するに、こういう消費者重視の姿勢は遺伝子組み換え作物の苦い教訓から生まれたものだと考えます。遺伝子組み換え作物は登場して24年の歴史がありますが、日本では普及がなかなか進みませんからね。
それにしても、この画期的な点を新聞は全く軽視しています。朝日新聞の「ゲノム食品 普及未知数」という見出しは、社のスタンスかもしれませんが、あえて普及させたくないというニュアンスがにじみ出ているように感じました。

ポイント2:表示
消費者の知る権利に応えて「表示」する

ママ美 2つ目のポイントは何でしょうか。

正美 ゲノム編集トマトが世に出てくるにあたり、消費者団体がもっとも要求しているのは「消費者の知る権利」「選択の自由」です。
言い換えると、スーパーに並んだゲノム編集トマトに「これはゲノム編集技術で作られたもの」といった表示があるかどうかです。
この点について、会社側は12月11日に東京都内で開かれた記者会見で、「この商品はゲノム編集技術で品種改良をしました」と書かれたカラフルなマークをつけて販売する、と明言。そのマークも披露されました。

ママ美 抵抗がある人は、「買わない」という選択ができるということですね。

正美 そうです。竹下達夫同社会長=写真は、「消費者は食品の由来を知る権利をもっています。購買時では選択の自由もあります。そういう情報の透明性を確保する面で社会的責任を果たしていきたい」と力強く、記者会見で述べています。

これは、ゲノム編集食品に抵抗のある人に対しては「買わない選択」を保障するということです。
あの熱い発言は、遺伝子組み換え食品ではあり得なかった発言と言えます。この企業姿勢は消費者目線に沿ったもので画期的だと思いますが、新聞記者はどちらかといえば、常に批判的な記事を書いていこうというスタンスなので、企業のこういう良い面を書いてくれません。
そもそもゲノム編集トマトは、血圧の上昇を抑え、ストレスを軽くして眠りやすくする成分(ガンマアミノ酪酸=ギャバ、GABA)を多く含む食品です。他のトマトよりもすぐれた機能性をもっているので、表示なしでは消費者が選べません。つまり、堂々と付加価値を表明して売る食品です。消費者へのメリットをうたうゲノム編集食品はそもそも表示が必要なのだという点を押さえておくことが大事です。

ママ美 消費者重視の姿勢なら、遺伝子工学的な技術で生まれた食品に抵抗を感じる私のような消費者にとっても、ゲノム編集トマトは一定程度受容されそうな気もします。3つ目は何でしょうか。

ポイント3:審査
「事前相談」は実質的な「審査」に相当

正美 ゲノム編集食品は、突然変異を生かした従来の品種改良と同等なので、安全性の審査は不要とされていました。
しかし、今回の一連の登場劇を見ていると、実質的に政府が審査していることが分かりました。
12月11日に届け出が受理されたわけですが、その前に企業、研究者、政府の間で周到な事前相談がありました。ゲノム編集トマトは本当に「外部からの遺伝子が入っていないのか」「食べた場合にアレルギーの恐れがないのか」といったことが実質的に事前相談の中で審査されていたのです。
今回の受理までの長引いた様子を見ていると、フリーパスではなく、それなりの審査が行われているということです。これは安全性に不安をもつ消費者にとっては安心材料になるとみています。
最後に1点。毎日新聞は「今回のトマトの安全性について企業側は、外来遺伝子がないので人体への悪影響はなく、また葉や根、茎の遺伝子は改変していないため、栽培に伴う環境影響もないとみている」(12月11日)と書いていますが、「外来遺伝子がないので人体への悪影響がない」などと企業側が言うわけがありません。そんな事実は全くありません。この記事を素直に読むと外来遺伝子のないゲノム編集作物は安全だが、外来遺伝子を入れた遺伝子組み換え作物は危ないとも読めます。記者はもっと正確に書いてほしいですね。

以上、ゲノム編集トマトのニュースへの関心が冷めないうちに、新聞では分からない3つのポイントを述べました。まだほかにもあるので、これからも新聞では分からない事実を解説していきます。