第15回 ゲノム編集食品が日本で普及するための条件(上)

 こんにちは、小島正美です。このサイトをご覧になっている人の中には、遺伝子組み換え作物やゲノム編集食品に関心をもっている人がけっこういらっしゃるようですね。そこで前回の話を受け、ゲノム編集食品が日本で普及するかどうかのカギを握るのは何なのかを、2回に分けて詳しく考えてみます。

ゲノム編集食品の具体例

ママ美 ちょっと難しそうなテーマですね。

正美 そんなことはありませんよ。以前にもお話をしましたが、ゲノム編集食品は、外部の生物から遺伝子を挿入していません。すでに自身のもっている遺伝子の配列を変えて、新しい形質をもった動植物をつくる技術です。簡単に言えば、自然界でも起きている突然変異で新しい性質を獲得するのと同じです。その突然変異を都合よく起こす「クリスパーキャス9」という新しい武器が出現したために、ゲノム編集食品が登場したわけです。

ママ美 でも、なんだかヘンな動植物が生まれてくるような印象もあります。

正美 ヘンなものかどうかは、具体的にどういう形質のものがゲノム編集技術で生まれているかを示せば、議論しやすいですね。以下にざっと挙げてみます。

①毒のないジャガイモ(食中毒の減少)

②肉付きのよいマダイやトラフグ(生産性の上昇)

③角(つの)のない牛(牛同士のケンカがなくなり、飼いやすくなります)

④血圧の上昇を抑える健康トマト

⑤おとなしい性格のマグロ(生け簀の壁に衝突して死ぬ頻度が減ります)

⑥日持ちするトマト

⑦呼吸器の病気(PRRS)を起こすウイルスに感染しにくい豚

⑧アレルギー物質の少ない卵を産む鶏(アレルギー患者に朗報)

⑨紫色のシャインマスカット(紫色のほうが高級感があるようです)

⑩除草剤をまいても枯れない稲(雑草退治が容易になります)

⑪花粉の出ないスギ(花粉症の人には朗報です)

⑫収量の高いイネ

⑬切っても、涙の出ないタマネギ

⑭褐色に変色しにくいマッシュルーム

などなど。

普及条件1 価格

正美 どうですか、ママ美さん。大半は国内で開発されているものです。この中で「これは買って食べてみたい。これなら人気が出そうだ」というものはありますか。

ママ美 毒のないジャガイモなら、興味を引くかもしれませんね。

正美 毒のないジャガイモは、学校の教材になる可能性もありますよ。

ママ美 どういうことですか?

正美 小学校の理科教育でジャガイモを栽培する授業がありますよね。その学校の庭で収穫したジャガイモを食べて食中毒を起こす例が毎年、どこかで発生しています。それなら理科教材としてゲノム編集ジャガイモを使えばよいわけです。食中毒の発生がなくなるわけですから大きなメリットだと思います。
 教材としてだけでは需要は少なすぎるでしょうが、毒のないジャガイモは業務用として引き合いがある可能性もあると思います。加工する段階で毒を除去する作業が省けるからです。

ママ美 ただ、私のような家庭の主婦から見ると、今のままのジャガイモでも特に不便を感じているわけではないので、びっくりするような魅力とは言えない気もしますね。

正美 確かにびっくりするような魅力とも言い難いですね。では、血圧を下げるトマトはどうですか。

ママ美 健康によいトマトは、昨年よくニュースで見ました。イメージはよさそうですね。スーパーで売っていれば、買うかもしれません。

正美 そのトマトは、高GABA(ガンマアミノ酪酸)トマトといって、高血圧の予防だけでなく、精神的なリラックス効果も期待できます。いまGABAは大人気で、チョコレートやコメ、清涼飲料など、いろいろな高GABA食品がスーパーで販売されています。GABA自体はすでに珍しいものではありませんので、同じトマトが店頭に並んだとき、消費者がGABAの豊富なトマトを買うかどうかです。
 価格が他のトマトと同じなら、私は高GABAトマトを買うでしょうが、他のトマトに比べて、2~3割高い場合に果たして売れるかどうかがポイントです。ミニトマトなら2~3個、大玉トマトなら家族4人で1個あれば、効果があるといわれていますので、有用性の点では文句なしの合格です。

ママ美 多少値段が高くても、血圧の高い人なら、買うような気もします。ただ、GABAの豊富なコメもあるくらいなので、他のGABA食品とかなり競合する点が否めませんね。

正美 本当にそのとおりですね。最大のカギは、いくらで販売されるかですね。

普及条件2 安全への信頼
 ~「ゲノム編集トマト」販売の大幅遅延は、普及にとってマイナス

ママ美 ゲノム編集トマトは、ニュースでは2019年度内には市場に登場すると書いてあったけど、もう販売されているのですか。

正美 それが大幅に遅れています。新聞やテレビのニュースは2019年度内には登場する、と盛んにはやしたてていましたが、いまだに届け出が受理されていません開発者と国(農水省と厚生労働省)との事前相談の段階で止まったままになっています。ゲノム編集食品は従来の品種改良と変わらないため、安全性の審査は不要と決まりましたが、こういう慎重な動きを見ていると、実質的には国がゲノム編集食品を審査しているように見えますね。

ママ美 何が原因で、遅れているのでしょうか。

正美 聞いても教えてくれませんでした。以下は私の推測です。
 クリスパーキャス9という方法は、狙ったDNA(遺伝子)を切るときにハサミ酵素(遺伝子)を使います。その酵素は外部の遺伝子なので、最終製品(トマト)から取り除かれているはずですが、本当にハサミ酵素が残っていないかどうかを確かめているのではと推測しています。もし残っていたら、ゲノム編集食品ではなくなってしまうからです。
 ハサミ酵素が残っていても別に安全性には問題ありませんそこまで厳しく審査するなら、「国が実質的に安全性を審査している」のと変わらないのではと私は思います。それなら最初から「国が安全かどうかを確認します」と言えばよかったのです。いまのような形でも国の事前審査があれば、国民はもっと安心できたと思います。これでは消費者に安心感をもってもらう上でコミュニケーションが上手とは言えませんね。届け出受理が遅れるほど裏に何かあるのではと思われてしまうでしょうから、遅れることはマイナス要因です。

ママ美 そういう背景があったんですね。初めて知りました。

正美 ちょっと話が横にそれてしまいましたね。次回は話をゲノム編集食品の魅力に戻って、続きを議論したいと思います。ママ美さんがどのゲノム編集食品に魅力を感じるか、興味しんしんです。