第82回 山田正彦氏の本に対して、あの斎藤幸平氏が推薦文を取り下げ!

こんにちは、小島正美です。経済思想家の斎藤幸平氏(東京大学准教授)といえば、ベストセラー『人新世の「資本論」』の著者として、マスコミで売れっ子の学者なのは、みなさんもご存じの通りです。その斎藤氏が、元農水大臣の山田正彦氏の本の推薦文を取り下げたという衝撃的なニュースを、ファクトチェックサイト「AGRI FACT」(アグリファクト)で知りました。そのせいかどうかは定かではありませんが、本の出版が遅れているようです。

今後、大注目の大事件です。

帯に斎藤氏の推薦文をつけて発行予定

どんな本なのでしょうか。ネットで見ると山田氏が出版する本のタイトルは「子どもを壊す食の闇」(河出新書)です。いかにもおどろおどろしいタイトルですね。本の帯に「なぜ発達障害児が20年間で40倍に増えたのか? なぜ日本だけ、がんやアレルギーがこんなに多いのか?」とあり、その下に―命の根幹である食が危ない。子どもたちの健康と日本の未来を守るために書かれた現場からの警告と改革の書。『人新世の「資本論」』斎藤幸平氏推薦―と大きく書かれています(写真参照)。

中身を読んでいないので、どんな内容かは分かりませんが、本の帯に「農薬、食品添加物、遺伝子組み換え・ゲノム編集食品―このままにはできない!」と書いてありますから、想像はつきます。

山田氏の過去の本を読む限り、根拠なく、農薬や遺伝子組み換え作物などの危険性を書いています。今回の本も読まなくても、非科学的な記述のオンパレードなのが推測できます。一番気になるのは、科学的な文献を渉猟しながら、しっかりとした論理力を生かして、本を書いてきた斎藤氏がなぜ、こんな非科学的な内容に満ちた本(あくまで想像ですが)に推薦文を書いたかが理解できないことです。

斎藤氏が一転推薦文を取り下げ

中身を本当に読んで推薦文を書いたかが疑問に残るところです。斎藤氏ともあろう人がなぜ?と不思議に思っていたところ、6月1日、ツイートで推薦文を取り下げたことを知りました。その内容は以下です。

「山田正彦さんの『子どもを壊す食の闇』(河出新書)に推薦文を寄せておりましたが、ご指摘を受けて、取り下げることにしました。今回の帯は発達障害激増の原因が農薬や添加物にあるかのような誤解を与え、不安を煽る結果、傷つく方もいらっしゃることに考えが十分に至っておりませんでした」。

そもそも発達障害が40倍も激増しているということ自体、医学的な根拠はありませんが、まして農薬や食品添加物が原因となると山田氏の勝手な推測(悪く言えば妄想)に過ぎません。そのことに斎藤氏が気づいてくれたことは誠に喜ばしいことです。だれから、どんな指摘を受けたかはよくわかりませんが、斎藤氏にはまだ「事実や科学を重視する」という学者としての良心があったのでしょう。もしそのまま帯の推薦文が印刷され、本が出版されていたら、学者としての斎藤氏への質問、批判は相当にあったのではないかと思われます。

河出書房新社のサイトを見ると、山田氏の本は当初は6月に発行予定でしたが、8月1日時点では、9月27日の発売予定となっています。本が出たら、間違いが多いことは目に見えています。ですから、私をはじめ、ファクトチェックに関心のある人たちは、いま手ぐすねを引いて、本の出版を待っているところです。即座に訂正要望があちこちから出てくることでしょう。

河出新書さん、そんな炎上騒ぎにならないよう、いまからでも遅くはありません。しっかりした科学的エビデンスに基づく内容かどうかを厳しくチェックしてください。農薬が原因で自閉症などの発達障害が激増しているという考えは、発達障害の子をもつ親に「農薬が原因なの。私のせいで子どもが発達障害になったの?」との罪悪感を与えてしまう恐れが強いことを忘れてはいけません。斎藤氏はそのことに気づき、推薦文を取り下げたのですから。発達障害の診断・治療を専門とする医師の専門家に原稿をチェックしてもらうことをぜひお勧めします。