第25回 意外!大豆食品が前立腺がんの死亡リスクを高める

2021年2月12日

こんにちは、小島正美です。今回は、私にとってもちょっと意外な食品のリスクに関するお話をします。
一般に大豆食品といえば、健康によいヘルシーな食品として知られています。ところが、大豆食品が前立腺がんの死亡リスクを高めるという研究結果が出たのです。

ママ美 大豆食品なら、私も毎日食べていますし、健康にとてもよいと思っています。それが、がんの死亡リスクを高めるなんて、本当ですか。

正美 まずは研究結果を紹介しましょう。
国立がん研究センターが2020年9月23日、学術誌「インターナショナル・ジャーナル・オブ・エピデミオロジー」(国際疫学ジャーナル)オンライン版に発表した多目的コホート研究(JPHC研究)です。
岩手、東京、長野、沖縄など全国の4万3580人(45~74歳)の食事アンケート調査から、総大豆食品やイソフラボン(大豆などに含まれる女性ホルモン様物質)の摂取量の多い順に5つのグループに分け、その摂取量の差と前立腺がん死亡の関係を調べました。

約17年間追跡したところ、前立腺がんによる死亡が221人ありました。総大豆食品の摂取量が最も多い群(第5五分位群)の死亡リスクは最も少ない群に比べて、1.76倍(ハザード比)も高かったのです。
つまり、総大豆食品の摂取量が多いほど前立腺がんの死亡リスクが高まるという関連が見られたのです。健康によいとされるイソフラボンでも摂取量が多いほど死亡リスクが高いという有意差がありました。

ちなみに前立腺は男性特有の生殖器の一つです。前立腺液といわれる精液の一部を作り、精子に栄養を与えたり、精子を保護する役割を持っています

ママ美 大豆食品はがんを防ぐというイメージをもっていました。それが、逆にリスクを高めるなんて。本当に意外な結果ですね。

正美 確かに私もそう思っていました。大豆に多く含まれるイソフラボンは女性ホルモン(エストロゲン)と同じような化学構造をもつため、女性ホルモンに似た働きをします。その作用はエストロゲンほど強くはないですが、女性が加齢とともにエストロゲンの分泌量が減少すると、それを補って、更年期症状を和らげたり、若々しさを保つ作用があるといわれています。アジアの女性の乳がんが欧米に比べて少ないのは、大豆食品を適度に摂取しているからだともいわれますね。
ところが、前立腺がんについては、必ずしもそうではなかったわけです。

限局がんと進行がんでは作用が異なる

ママ美 ということは、男性は大豆食品をあまり食べないほうがよいのでしょうか。

正美 そういう意味ではありません。イソフラボンの摂取は、がん細胞の増殖にかかわる酵素や血管新生を阻害する働きがあることも分かっています。この働きから見ると、前立腺がんを予防することが国立がん研究センターの過去の疫学調査で分かっています。

ママ美 ??結局、大豆食品は、前立腺がんのリスクを高めるのか、逆に予防してくれるのか、どちらなのでしょうか。

正美 同じ前立腺がんでも、がんが前立腺の中にとどまる限局前立腺がんと、がんが周囲の組織に広がる進行前立腺がん(いわゆる進行がん)では、異なる作用が現れるというのです。
言い換えると、イソフラボンの摂取は、限局前立腺がんのリスクを低下させますが、進行がんだと逆にリスクを高める方向に作用するというわけです。このことは欧米の疫学研究でも報告されているようです。

ママ美 同じイソフラボンが、がんの進み具合で異なる作用を及ぼすのですね。何か不思議な感じがします。

正美 健康によい物質でも、その量によって、毒にも薬にもなるという格言を思い出しますね。
なぜ、イソフラボンが進行がんを促すかについては、詳細なメカニズムは解明されていません。イソフラボンは、エストロゲンの受容体(女性ホルモンをキャッチするアンテナのようなもの)にくっついて作用しますが、進行がんではそのアンテナ(受容体)が少なくなることが報告されています。そういうことから、イソフラボンの働きが弱まるのではという見方もありますが、本当のところはよくわかっていません。さらにエビデンス(科学的証拠)を蓄積していく必要がありそうです。

ママ美 女性ホルモンは多いほどよいというイメージがありましたが、そう単純でもない、という例ですね。

正美 そういうことです。健康によいからといって、その特定の食材だけを食べ続けても、必ずしも健康になれるとは限らない、というたとえに似ていますね。
とはいっても、大豆食品は循環器疾患のリスクを下げたり、更年期症状を緩和する効果は確かにありますので、健康な食生活にとって欠かせない大切な食材なのは間違いありません。月並みな言い方になってしまいますが、健康的な食生活とは、リスク分散の観点から言ってもいろいろな食材を偏ることなく食べるのがよいということなのでしょう。