第16回 ゲノム編集食品が日本で普及するための条件(中)

 こんにちは、小島正美です。きょうは、ゲノム編集食品が日本で普及する条件の2回目です。具体的にどういうものが、ゲノム編集技術で生まれているかを示しながら議論していきましょう。
 まずは前回示した、ゲノム編集技術で誕生する見込みのある食べ物を、もう一度あげてみます。

①毒のないジャガイモ
②肉付きのよいマダイやトラフグ、牛
③角(つの)のない牛(牛同士のケンカがなくなり、飼いやすくなります)
④血圧の上昇を抑える健康トマト
⑤おとなしい性格のマグロ(生け簀の壁に衝突して死ぬ頻度が減ります)
⑥日持ちするトマト
⑦呼吸器の病気(PRRS)を起こすウイルスに感染しにくい豚
⑧アレルギー物質の少ない卵を産む鶏
⑨紫色のシャインマスカット(紫色のほうが高級感があるようです)
⑩除草剤をまいても枯れない稲(雑草退治が容易になります)
⑪花粉の出ないスギ(花粉症の人にも朗報です)
⑫収量の高いイネ
⑬切っても、涙の出ないタマネギ
⑭褐色に変色しにくいマッシュルーム
などなど。

普及条件3 消費者にとって分かりやすいメリットがある

ママ美 ⑬涙の出ないタマネギ…。一度切ってみたいわ。

正美 実をいうと、すでに涙の出ないタマネギは世に出ています
 ハウス食品が5年前、通常の選抜育種で開発し、市場で販売し始めているのです。生産地は北海道で、一部の店やネットで販売されています。個人的な感触では、爆発的なヒット、とまでは言えないような気もします。台所を預かる人(女性と言ってはいけない時代ですね!)にとって、朗報だと思いますが、いまいち注目度は低いようです。そこへゲノム編集のタマネギが登場しても、二番煎じの感は否めませんね。


ママ美 そのほかでは、⑧アレルギー物質の少ない卵を産む鶏、⑪花粉の出ないスギ、に期待したいですね。卵アレルギーや花粉症に悩んでいる人は多いですから。
 それにしても、⑨紫色のシャインマスカットは、説明してもらわないとメリットが分からないですね。

 
正美 高級ブドウのシャインマスカットは、いまは光沢のある緑色ですが、紫色のほうが巨峰に似て、高級っぽく見えるそうです。ただ、個人的には今の色のほうが好きですね。
 さらにいえば、いまは、一房2000円前後と高く、私のような庶民には給料日くらいしか買えません。シャインマスカットをもっと庶民に届けるには、見た目の色よりも、もっと値段を安くできないかなと思います。

生産者にとってメリットがあるパターンが多い

ママ美 同感です。
 ⑤おとなしい性質をもったマグロも、聞いただけではメリットが分かりません。性格がおとなしかろうが、荒々しかろうが、消費者にとっては味がおいしければよいというか…。

正美 確かにそうですが、マグロの幼魚を海の生け簀で飼うときに、一番問題になるのは、高速で泳ぐマグロが網にぶつかって死ぬ頻度が高いことなんです。


ママ美 え!それは、知りませんでした。

正美 ですから、おとなしいマグロなら、激突が避けられ、マグロ養殖の生産性が上がるわけです。生け簀での死亡数が減れば、養殖マグロの価格が安くなるメリットは確実にあります

ママ美 それは魅力的ですね。生産性が上がり、価格も下がれば、生産者と消費者の双方にメリットがあり、ゲノム編集では有望な例になりうる要素を秘めていますね。


正美 ゲノム編集にしては珍しく、生産者と消費者の両方にウイン―ウインの例ですね。


ママ美 ⑩除草剤に強いイネって、どこかで聞いたような気がします。


正美 そうです。すでに遺伝子組み換え作物で実現している「除草剤をまいても枯れない大豆やナタネ」(除草剤耐性大豆などといいます)と同じ性質のものです。
 組み換え大豆などは、農家にとっては除草剤の使用が節約できるため、米国やカナダ、ブラジルなどで広く普及しました。すでに米国の大豆の9割以上は組み換え技術で生まれた除草剤耐性大豆です。
 日本でも同様の性質をもったゲノム編集イネが誕生すれば、農家には大きなメリットがあると思います。
 また、⑫収量の高いイネも、食料自給率の低い日本にとっては大きなプラスです。このイネが家畜の飼料向けに高収量で生産できれば、輸入穀物に頼る割合が減らせるので、とても有望です。どちらのイネも日本で開発されていますから、期待しましょう。

注目大きい「ウイルスに感染しにくい豚」

ママ美 ところで、⑦PRRSの豚って、何でしょうか。初めて聞きますが・・。


正美 消費者にはほとんど知られていませんが、養豚生産者にとって大きな損失となっている病気に「豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS)」があります。ウイルスによって起きる伝染病です。呼吸器だけでなく、母豚の死流産も引き起こすので、おそらく欧米だけで年間数千億円もの損失があると思います。この病気がなくなれば、養豚業者には大きな朗報となります。
 この病気にかかりにくいPRRS耐性豚はすでに米国では商業ベースに乗るレベルで誕生しています。開発したのは英国のGenus(ジーナス)という会社です。

ママ美 豚肉は安全なんですよね。

正美 もちろん豚肉は安全です。問題は、消費者が受け入れるかどうかです。ゲノム編集食品は表示が義務づけられていないので、無表示で販売される可能性もありえますが、英国の会社の広報担当者に聞いたら、「豚肉自体は全く安全なので、任意で表示して売ってもよい」と言っていました。ただ、やはり表示した場合に消費者が買ってくれるかどうかをとても気にしていました
 こういう例をみると、事業者が気にするのは、ゲノム編集という「表示」があることでイメージが悪くなるのではという悩みですね。とはいえ、このゲノム編集豚は養豚生産者にとって大きなメリットがあるのは事実です。
 議論が長くなりました。このテーマは2回の予定でしたが、きょうはここでおわり、次回に議論をまとめたいと思います。びっくり最新情報もお伝えしますので、楽しみにしておいてくださいね。