第50回 「無添加」表示のルール作り 消費者庁は認める方向へ進んでいる?

こんにちは、小島正美です。今回は、以前に予告した、消費者庁が食品添加物などの「無添加」「不使用」表示を認めるべきかどうかを考えます。ママ美さん、今回は私のナレーションだけで展開しますね。

いま、消費者庁で「無添加」「不使用」表示のガイドラインを作るための検討会が開かれています。私は「無添加」「不使用」表示は禁止すべきと考えています「無添加」「不使用」表示はあまりにも消費者を惑わす表示だからです。ただ、さまざまな意見が出されながら進む検討会を見ていると、消費者庁が、無添加・不使用表示を認める方向に進んでいるのではないか、という印象を持ちます

「無添加」表示は、消費者の誤解を招く

まず、「無添加」「不使用」表示について、これまでの経緯を簡単に振り返りましょう。

食品添加物を使用した時、法律によって事業者はその使用を表示しなければなりませんが、使用しない時については、表示のルールはありませんいろんな食品に「無添加」や「不使用」の表示が氾濫していますが、事業者任せになっているわけです。

「無添加・不使用」表示が消費者の誤解を招くことは、ブログ第2回の記事「『添加物不使用』『無添加』は騙しのテクニック?」で詳しく紹介しました(https://foodnews.online/2020/04/22/post-48/)

百家争鳴の検討会

そこでいま、消費者庁は検討会を開いて、「無添加」や「不使用」の表示についてガイドラインを作ろうとしています。5月31日、2回目の検討会が開かれました(6月22日に議事録が公開されます)。

この日の検討会は、行く末を決する関ヶ原の合戦のような百家争鳴ぶりでしたが、なんとなく消費者庁は無添加・不使用表示を認める方向に進んでいるのではないか、という印象を持ったというわけです。

検討会はまだ2回目で、あくまで直観の域を出ません。ただ、この日、8人(団体や会社)が意見を述べました。それを聞いた多くの人は「意見が分かれている」と感じたはずです。

うがった見方かもしれませんが、消費者庁は互角の試合ぶりを観戦させて、「どちらの言い分にも理がありますね。ならば、不使用や無添加の表示を禁止するのではなく、不使用の意義もあるようですから、条件付きで認めてはどうでしょうか」という絶妙な演出を試みたように思えるのです。

意見が分かれた生協

この日の意見のやりとりは、学校のディベート授業に活用できるくらいにおもしろいです。

まず、市民団体の「食のコミュニケーション円卓会議」と「くらしとバイオプラザ21」の意見は「無添加表示は禁止すべし」でした。消費者の多くは無添加表示を見て、安全で健康そうだ、と誤認している。つまり、消費者の食品添加物に対する科学的な理解を妨げている。合成保存料不使用と表示しながら、保存目的の別の添加物を使うのは消費者をだます行為だ――と述べました。

おもしろかったのは2つの生協でした。「パルシステム生活協同組合連合会」(事業エリアは1都12県)は、無添加表示を禁止に賛成しませんでした。「発色剤」や「増量剤」「化学調味料」などの使用は、あたかも良い素材を使用しているかのような誤認をまねくため、不使用の表示が必要だというのがその理由です。

一方、東都生活協同組合(東京都世田谷区)は「ハム・ソーセージなどの食肉製品に『発色剤不使用』の表示はしていない」などと述べ、無添加表示の禁止に賛成の意見でした。

同じ生協でも随分とスタンスが違ったわけです。全国にはたくさんの生協がありますが、遺伝子組み換え食品や食品添加物の使用などを肯定的にとらえる生協が増えてきましたが、それらに絶対反対の姿勢を崩さない生協もいくつかあります。パルシステムは後者に入ります。

市民団体の意見を見る限り、無添加・不使用表示を禁止させる方向がやや優勢のように聞こえますが、意外な展開になったのは後半でした。事業者は、そろそろ消費者を惑わす表示にピリオドを打ちたいのだと思っていたら、私の予想ははずれました。

不使用に至る企業努力を認めるべきだという意見も

「日本香料工業会」「全国清涼飲料連合会」「味の素株式会社」「全国味噌工業協同組合連合会」という4つ団体・会社が意見を述べ、そのほかに「パン工業会」「日本ワイナリー協会」「日本洋酒酒造組合」の意見書も示されました。日本香料工業会は「香料の無添加・不使用の表示は、香料を使わないことが優れているかの印象を与え、香料に対する風評被害にもつながる」と無添加表示の禁止に賛成でした。

「化学調味料」が危険かのような風評の解消に取り組んでいる味の素株式会社は「消費者は無添加表示の製品を安全で健康に良いと誤認している」と無添加表示の禁止を支持する意見でした。

これに対し、全国清涼飲料連合会は「『不使用』表示の一律禁止は、企業の取り組みを阻害する恐れがある。たとえばコーヒー飲料で、企業が長年の研究によって香料を使わずにできた努力の結晶はアピールしたい」とし、無添加表示は残すべしでした。

「無添加」の表示でみそを製造販売している全国味噌工業協同組合連合会は「無添加味噌はすでに消費者に認知され、ニーズに応えている」として、無添加表示は認めるべしでした。

消費者を誤認させて利益を得ることには賛同できない

どの意見にも一理あると思った人が多いと思います。しかし、私は「無添加表示を認めるべきだ」とした事業者は、消費者の誤認防止よりも自社の利益を優先させているように感じました

私の心が一番ビビッときたのは、「食のコミュニケーション円卓会議」代表の市川まりこさんの意見でした。「そもそも不使用と強調表示することが企業努力なのでしょうか。不使用表示を求める消費者ニーズは、添加物への誤解の上に成り立っています」との主張には同感です。

大事なことは「どういう消費者を育てたいか」です

一番大事なことは、国がこれからどういう消費者を育てていきたいか、です。

過去を振り返れば、食品添加物のリスクを科学的に理解できる消費者を少しでも増やすために、消費者庁や食品安全委員会などは長期間、リスクコミュニケーションをやってきたはずです。消費者の不安に寄り沿う表示を安易に認めていく限り、科学的にものごとを考える消費者は育っていきません。

8人の意見と参考意見を総合的に見ると、数の上では現行の無添加・不使用表示を禁止すべし、の意見が多かったのですが、検討会委員とのやりとりを含めた全体のトーンは、どちらにもそれなりの理があるかのような印象を与えたのではないでしょうか。

2022年3月末に表示ガイドラインができる予定です。もし国が無添加・不使用表示を認めたら、一部の業界と一部の生協は「やったー!」とばかり大手を振って、無添加商品を出してくるでしょう。そうなれば、これまでの国のリスクコミュニケーションは水泡に帰します。惑わす表示はリスクコミュニケーションを後退させるだけです。消費者庁は、食品添加物に不安を抱く消費者を増やしたいのか、減らしたいのか、どちらなのでしょうか。そこを考えれば、答えはおのずと出てくるはずですが、どうも雲行きが怪しい。