第49回 「緑茶は農薬まみれ」の記事に、お茶業界はファクトチェックで対抗すべき

こんにちは、小島正美です。予定を変え、前回に続いて週刊現代の「日本茶は農薬まみれ」(6月5日号)の記事に関して考えてみます。週刊誌の威力はかつてほど強くはないでしょうが、そうはいっても、茶葉やお茶のペットボトル飲料が「農薬まみれ」と書かれたら、通常なら、自社製品にありもしない言いがかりをつけられた格好の関連メーカーから抗議や訂正要求が出てもおかしくないはずです。ところが、大手飲料メーカーに目立った反応はないようです。

ママ美 あそこまで言われても、黙っているつもりなのでしょうか。

正美 もし、この記事が新聞記事なら、おそらく訂正要求が来るはずです。どうやら週刊誌だと抗議しても応じることはないだろうと予想して、メーカーも沈黙を保っているのでしょうか。この種のトンデモ記事は過去に何度もありました。
仮にこの記事が市民団体の活動を誹謗中傷する記事なら、市民団体は週刊現代を発行している親会社の講談社に次々と抗議のファクスやメールを送るでしょうね。
日本のメーカーはおとなしいので、週刊誌に「天敵なし」の状態です。ネットを見ていたら、週刊現代の記事に対して、「私自身、お茶を飲むときに残留農薬を意識したことは一度もありません。こんな世間を惑わす記事に対して、罰則はないのでしょうか」(小泊重洋さんという方のブログ)という嘆きも見られました。

ママ美 週刊誌にも言論の自由はあります。中国のような検閲に近い罰則には賛成できません。読む側の読者が賢くなるしかないのかなと思います。

正美 確かにそうですね。改めて6月5日号を見ると、農薬まみれの記事のほかに、「日本人のワクチン死85人 『自分は打たない』と決めた医師たちの意見」「東京五輪をただちに中止せよ」といった目玉記事が見られました。要するに極端な意見を載せて、おもしろおかしく書いているだけなのが分かります。

5カ月前は、お茶を称賛していました

週刊現代の過去の記事を見たら、超おもしろ記事に出くわしました。
今年1月23日号では、なんと「たった1分で99%が消滅 お茶でコロナが消える」とする奈良県立医大の論文を紹介し、お茶を持ち上げていたのです。その記事では水を飲むより、緑茶や紅茶を飲んだほうがいいという識者のコメントを載せています。
(お茶に含まれる)カテキンは自然免疫を担うNK(ナチュラルキラー)細胞を活性化することも判明していると書き、お茶によるうがいなどお茶の活用を推奨していたのです。
この記事を見た「山東茶業組合」(静岡県)はホームぺージで「新型コロナが猛威を奮っていて大変な事になっています。そんな中、週刊現代の1月23日号に『お茶でコロナが消える』という記事が掲載されました」と週刊現代を好意的に紹介しています。

ママ美 茶業界は大喜びだったわけですね。

正美 ところが、それから5カ月後、今度は「お茶は農薬まみれ」と、いわれなき中傷を受けました。好きな相手から、今度は非難を浴びたわけですから、天国から地獄に転落するほどのショックだったのではないでしょうか。

ママ美 茶業界も泣き寝入りでしょうか。

正美 ネットで反応を探すと、静岡県茶業会議所が「6月5日号の記事について、科学的根拠に基づかない記述が随所に見られ、農薬やその安全性評価体系に対して誤解が生じかねないことから、農薬工業会から説明の文書が出ています」と、農薬工業会の反論を紹介していました。
東京都茶協同組合も、さすがに「日本茶は農薬まみれ」の記事に対しては憤りを感じたのか、「農薬工業会がホームページに反論を掲載していますのでご参照ください」と農薬工業会の反論を紹介しています。私の知る限り、業界として、まともな反論を載せたのは農薬工業会だけです。

ママ美 言論の自由と両立する良い方法はないのでしょうか。

正美 2つあります。ひとつは、週刊現代は本当に信頼できる情報を読み手に届けているかどうかをじっくりと考えることです。お茶でコロナが消えると書いてみたり、新型コロナワクチンが原因でさも85人が死んでいるかのように書いたり、雑誌の表紙の見出しを見るだけでも信頼性は薄いと思いませんか。
週刊現代は、記者たちが販売している商品です。自分(読者)が生きていくうえで有益なる情報を届けてもらうために、週刊現代の記者たちにお金を払うかどうかです。私はとても払う気になれません。信頼性に欠けるからです。
週刊現代の記者たちは「農薬まみれ」と書いたあとも、ほぼ間違いなくお茶を飲んでいることでしょう。踊らされるのは読者だけ、そして、不利益を被るのは言いがかりをつけられた関連製品業界ということでしょうか。
ただし、新聞が書けないことを週刊誌が書いたりするメリットはあると思いますので、健全な方向で生き残ってほしいですね。

ママ美 記者が信頼されれば、読者もついてくるということですね。

正美 そうです。
もうひとつの対策は、農薬工業会がやっているように、記事に対する科学的なファクトチェックを載せて、それを広く読んでもらうことです。常にファクトチェックをウェブサイトで読むことができれば、茶業界が農薬工業会のホームページを紹介したように、少しはメディアリテラシー(メディア情報を批判的に読み解くこと)が進むと思います。今後の課題は、難しいことは分かっていますが、ファクトチェックを行う専門家集団をもっと増やすことですね。