第2回 「添加物不使用」「無添加」は騙しのテクニック?

 こんにちは、小島正美です。

 きょうは、食品添加物について、消費者意識が高めの主婦・ママ美さんからの質問に答えながら、説明していきたいと思います。

 ママ美 よろしくお願いします。
 私はスーパーでパンを買う時、「イーストフード・乳化剤 不使用」と表示されている商品を買うようにしています。
 「不使用」とわざわざ書いてあるくらいですから、イーストフードや乳化剤というのは、何か健康に良くないのではないかと思うからです。
  と言いながら、何がどう、良くないかを調べたことはなく、本当のところを教えてください。

イーストフード

 正美  イーストフードも乳化剤も、いわゆる「食品添加物」です。国によって安全性が確認されており、心配には及びませんが、消費者の選択のために事業者は物質名を表示する義務があります。

 ご存知のようにパンは、パン酵母(イースト)の働きで生地がふっくらとやわらかくなります。
 イーストは生き物なので、栄養分(フード)を食べて生きています。イーストフードは、その酵母が元気よく働くための栄養分です。
 つまり、イーストフードを使うとパンの発酵が安定し、風味がよく、ふっくらとしたパンを作ることができるわけです。

 ママ美 「イーストフード」はひとつの物質なんですね? 

 正美  まあ、そうですが、正確にいえば、食品表示法で定められている「塩化アンモニウム」や「炭酸カルシウム」など18種類の成分を一括して「イーストフード」と言っています。

乳化剤

 ママ美 もう一方の乳化剤はどんな働きがあるんですか?

 正美  乳化とは、水と油のように本来は混ざり合わないものを均一に混ざり合うようにする働きを言いますね。パンの場合は、保水性を高めて、ボリューム感のあるやわらかさを保つために使います。
 これもどんな物質を一括して乳化剤とするかが食品表示法で定められていて、「グリセリン脂肪酸エステル」や「卵黄レシチン」など25種類あります。
 イーストフードも乳化剤も食品添加物ですから、使用したときにはパンの袋に、表示をしなければならない決まりになっています。

 ママ美 でも食品添加物って、できれば食べないほうがよいのではないですか。

 正美  そうでしょうか。
 国が動物実験などの試験結果をきちんと評価して「食品に加えても安全です」と使用許可を与えたものなので、私は食品添加物が入っていても全く気になりませんが、どう判断するかは、人それぞれなので、頭から否定するつもりはありません。
 ただ、まわりを見ると「天然物は安全」と思っている人が多いようです。安全性をチェックしていない天然の添加物のほうがよほど心配ですという専門家が多いことを知ってほしいですね。

なぜ「不使用」表示が出てきたの?

 ママ美 ところで、なぜイーストフードと乳化剤を「使っていない」と表示されたパンが出てきたのでしょうね。

 正美 わざわざ「不使用」をパンの袋に表示するメーカーが出てきたのは20数年前からです。
 自社のパンこそが安全だと訴えて売りたかったのでしょうね。食品添加物の使用に反対する市民運動は以前からありましたが、それ以降、メーカー間の競争が働いて、「不使用表示」が増え始め、ママ美さんのように食品添加物を不安に思う人が多く出てきたように思います。     

 ママ美 そうなんですね。

 正美 「不使用」の表示は消費者を不安にさせる意味では大成功でしたね。
 たとえば、消費者庁が2019年、消費者1万人に調査をしたんです。すると、51%が「不使用」や「無添加」の表示がある商品を買うと回答しました。理由を聞くと、73%の人が「安全で健康によさそうなため」と答えました。

不使用表示は騙しのテクニックか?

ママ美 私も同じ気持ちでした。できれば添加物は少ない方がいいですものね。

正美  でも、無添加だから安全とは限りませんよ。添加物なしだと病原菌が増えて食中毒になる恐れがあるということもその理由ですが、ここで強調したいのは、不使用表示は消費者をだます武器にもなっているということです。「イーストフード・乳化剤の不使用」も同じです。

ママ美 えーっ、私がだまされているっていうの?

正美  「不使用」と表示されているパンにも、それに代わる別の物質が使われていたり、含まれていることが分かったんですよ。

ママ美 え!ホントですか。

正美  パン大手「山崎製パン」が、イーストフードと乳化剤を「不使用」と表示している3社のパンを分析したのです。すると、イーストフード(18種類の成分)、乳化剤(25種類の成分)は、確かに使用されていませんでした。しかし、イーストフードや乳化剤と同じような働きをもつ別の物質が使われていたり、含まれていたというのです。

ママ美 別の物質って、何を使っていたのですか。

正美  山崎製パンによると、たとえば、イーストの栄養源になる小麦たんぱく、たんぱく分解酵素、炭酸カルシウムなどを含む天然鉱物を使うと、結果的にそれらが栄養分の働きをするというものです。
 乳化剤では、「乳化剤不使用」と表示されたロールパンの中に乳化剤の卵黄レシチンが検出されました。原材料として卵黄油を使えば、結果的に乳化剤を使ったのと同じようなパンになります。しかし、添加物としての卵黄レシチンを使ったわけではないので、「乳化剤」不使用と表示できてしまうのです。

ママ美 確かに「小麦たんぱく」や「卵黄油」「酵素」などという表示だと、私には悪い印象はないですね。

正美  そこなんです。そういう消費者の気持ちを巧みに操るのが不使用表示や無添加表示です。合成保存料不使用と書いてあっても、保存目的で別の添加物を使っている例はいくらでもあります。無添加と書いてあっても、添加物を使っている例もあります。

 結局、どういう添加物を使っても、実質的な差はありません。どのパンメーカーに聞いても、「乳化剤やイーストフードが健康に悪い」とは少しも思っていません。ただ消費者の不安な気持ちに応えているだけだと言っています。

ママ美 そうだったんですか。私は、イーストフードや乳化剤「不使用」のほうが安全で健康的だと思っていました。うまく操られていたわけですね。

正美  最近は、ママ美さんのように、「不使用のほうがより安全な商品だ」とまちがったイメージを抱くことを防ぐため、山崎製パンの調査を受けて、「不使用」表示をやめるメーカーが出てきています。

ママ美  今回の話を聞いて、今まで当たり前のように思っていたことが、実は違うんだと考えさせられました。

正美 「不使用」や「無添加」のような一見よさそうな表示を見たら、まずは疑ってかかるマインドを持ちたいですね。「もうだまされないぞ」という消費者が増えていけば、事業者の姿勢も変わるかもしれませんね。

 きょうのレッスンは、「不使用」や「無添加」の表示は、あなたの心を操ろうとする巧みなテクニックだと覚えておくことです。