第76回 遺伝子組み換え食品の「でない表示」に見る不思議な出来事

こんにちは小島正美です。しばらく小休止していてすみません。みなさんもご存じのように、4月から食品表示法に基づき、遺伝子組み換え食品の任意表示のルールが変わりました。以前は、組み換え原料の意図しない混入率が5%以下なら、「組み換えではない」と表示できましたが、4月からは厳格になり、「組み換えではない」と表示できるのは、組み換え原料が「不検出」の場合に限るというルールになりました。画期的な前進だと思うのですが、意外にも反対があるようです。

日本はEUよりも厳しいルール

遺伝子組み換え食品の表示制度は2001年にできました。この表示制度は、組み換え原料を使った場合は「組み換えです」との表示を義務づけ、分からない場合は「不分別」との表示を義務づけるものです。そして、組み換え原料を使っていない場合は、表示義務の対象とはならず、無表示のままでもよいし、組み換え原料の混入率が5%以下なら、任意で「組み換えではない」との表示が可能でした。

しかし、「『組み換えではない』と表示されているのに、最大で5%も混じっているなんておかしい。欧州連合(EU)のルールは混入率が0.9%以下と厳しい。日本も欧州並みにすべきだ」という声が強くありました。

それならば、と消費者庁は識者検討会の議論を経て、EUよりも厳しい「不検出」(限りなくゼロに近い量)に限って「組み換えではない」という表示ルール(あくまで任意)にしたわけです。EUの表示ルールと比べた場合、どうみても日本のルールのほうが間違いなく正確になったわけです。

つまり、今度のルールの厳格化によって、「組み換え作物を絶対に食べたくない」という消費者の選択が確保され、なおかつ表示と中身が一致する正確性が確保されるわけですから、どうみても、新しいルールは世界に誇るべき消費者庁の大英断だと言えます。

生協は冷ややかな反応

こうしたことから、「表示ルールをEU並みにすべきだ」として、これまで組み換え作物の栽培や普及に反対していた市民団体や一部生協は、表示ルールの厳格化を歓迎するかと思っていたのですが、私の予想は見事にはずれました。

以前から組み換え作物に反対していた生活クラブ生協の活動レポート(2022年8月の生活クラブOPINION)を見ると、今度のルール改正に対して、「国がより正確性を重視した厳しすぎる基準を採用したことにより、さらなる改悪が2023年4月から実施されようとしています」との記述がありました。

表示のルールを厳しくすると「組み換えではない」という表示ができなくなってしまうことが問題だという認識のようです。表示ルールの厳格化は、不思議なのですが、同生協からみると改悪のようです。

組み換え作物が絶対にイヤだというなら、組み換え作物(海外から輸入される大豆やナタネ、トウモロコシなど)を一切使わずに加工食品を製造し、「組み換えではない」と表示して販売すればよいのにと思いますが、実際にはそれが難しいのでしょう。

いうまでもなく組み換え原料の混入(特に輸入作物の場合)をゼロにするには、これまでよりも多くの労力と費用がかかります。コスト(経済的利益)よりも命が大事だと主張している生協ならば、たとえ多大な労力とコストをかけてでも、「組み換えではない」という表示の製品をどしどし出してくるのかと思っていたのですが、いまのところ、そういう強い動きはないようです。

代わって登場した「GMOにNO!」

表示ルールの厳格化に対して、同生活クラブ生協は「私たち消費者は、遺伝子組み換えでない食品を選ぶことができなくなります」と記していますが、そんなことはありません。組み換え原料を避けたい人は、「無表示」か「分別生産流通管理済み」(または遺伝子組み換え混入防止管理済)といった表示を見れば、選択できます。

さらに、組み換え作物は絶対にイヤだという人は、組み換え原料がゼロに近い「組み換えではない」という表示の製品を選べばよいのです。そういう意味では組み換え作物に反対してきた生協は、「組み換えではない」という表示の製品をどんどんつくって、存在感を示す良い機会ではないでしょうか。

しかし、現実には「組み換えではない」という表示よりも、「NON GMO」とか「GMOにNO!」とかの新しい表示を出してきています。GMOとは遺伝子組み換え作物のことです。こういう表示の動きを見ていると、そうした生協が一番訴えたかったのはやはり「GMOに反対です」という主張だったのかなと思ったりします。

表示の厳格化に反対するということは、組み換え原料が少しくらい混じっていても受け入れると言っているのと同じです。不思議な出来事とはこのことです。この点は重要なのでしっかりと覚えておきたいものです。