第28回 新型コロナ感染と、ビタミンD欠乏との関係

2021年2月3日

こんにちは、小島正美です。コロナ禍で重症者が増え続けているため、今回はビタミンDの摂取が新型コロナ感染の予防に効くかどうかを考えてみます。なお、予告していた、ゲノム編集トマトに関する記事の中身を7つの主要メディアで比べてみるメディアリテラシーの話は次回アップいたしますので、こちらもご期待ください。

ママ美 テレビで時々、ビタミンDが、コロナの予防になるかのようなニュースを聞きますが、本当のところはどうなんでしょうか。

正美 健康食品の表示の根拠なども審査する「欧州食品安全機関(EFSA)」は、ビタミンDについて、「正常な免疫機能や炎症反応に役立つ」や「正常な骨と歯の維持に役立つ」など、一定の機能性表示を認めています
なので、ビタミンDは、免疫機能も含めて、健康維持に必要な栄養素なのは間違いないです。ビタミンD不足でO脚になったり、身長が伸びないなどの症状を示す子供のくる病はよく知られていますね。
ただ、ここで知りたいのは、ビタミンDがはたしてコロナ感染を防ぐかどうかですね。こういう場合は、まず公的機関がどう考えているかを見ることが大事です。

ママ美 公的機関と言ってもたくさんありますが、どこを調べればよいでしょうか。

正美 健康食品やサプリメント(栄養補助食品)の安全性や有用性を知りたいと思ったら、まずは、国立健康・栄養研究所のWEBサイトを見るのがよいです。

国立健康・栄養研究所の見解の問題点

ママ美 その研究所はなんと言っているんでしょうか。

正美 国立健康・栄養研究所の『「健康食品」の安全性・有効性情報サイト』(10月2日更新)を見ました。ビタミンDが気道にかかわる感染症に対して、どの程度予防効果を示すかについて「現時点では、インフルエンザに対して、『ビタミンDが効く』と言える十分な情報は見当たりません。ましてや新型コロナ感染症に対して検討した論文は見当たりません。健康情報の拡大解釈にはご注意ください」と記しています。

ママ美 結局、ビタミンDはコロナ感染には効果がないということですね。

正美 うーん。単に「効果がない」と言い切ってしまうのも、情報の伝え方としては不正確ではないかと思います。なぜかというと、ビタミンDの血中濃度が低い人ほど新型コロナ感染症にかかっている率が高い、という海外の研究報告がいくつかあるからです。
また、新型コロナ感染症で重症化したときに発症する「急性呼吸窮迫症候群(ARDS)」について言えば、ビタミンDの血中濃度が低い人ほど急性呼吸窮迫症候群(ARDS)にかかった割合が高いというアイルランドの研究報告もあります。

こういうデータを見ると、「ビタミンⅮを摂取しても感染症の予防にはならない」という言い方と「ビタミンⅮが欠乏すると感染症にかかりやすくなる」という言い方を区別する必要があることが分かりますね。単純に「効く」「効かない」という言い方は不正確だということです。

ママ美 なるほど。栄養素が欠乏したときに何か悪い症状が出る場合があれば、やはりそのことも伝える必要はあるように思いますね。

正美 そういう情報の伝え方の観点でいうと、国立健康・栄養研究所の「ましてや新型コロナ感染症に対して検討した論文は見当たりません」という言い方は、とても不正確な表現です。ビタミンDとコロナ感染・死亡リスクとの関連を調べた研究報告はたくさんあります。ごく最近でも、ビタミンDが欠乏した場合には、コロナ感染率が高いというスペインの報告(学術誌「Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism」10月27日付)があります
ただし、ビタミンの摂取が確実にコロナ感染を防ぐことを証明した研究報告は、たしかにありません。そのあたりの言い方は微妙ですが、「効かない」という一言で済ませるほど単純ではないということです。

ビタミンD不足の人の、コロナ感染率は高い

ママ美 じゃあ、どう言えば一番よいのでしょうか。

正美 私なら、次のように言います。「ビタミンDの摂取がコロナ予防になる証拠はありません。しかし、ビタミンDが欠乏する人たちにコロナ感染率が多かったという報告があるため、日ごろから、ビタミンDが欠乏しないような生活をしましょう」

ビタミンDが免疫調整作用を持っているのでは確かです。だれでも知ってのとおり、ビタミンDは太陽光を浴びて体内で合成されます。コロナで外出する機会が減れば、太陽にあたる時間も減りますね。天気のよい日は1日30分程度の散歩はしたいです。また、ビタミンDの豊富な食べ物として、カツオ、アンコウ、ヒラメ、ウナギ、ベニザケ、サバなどの魚介類があり、植物ではキクラゲ、干しシイタケなどに多いことも知っておくとよいですね。

「望ましい血中濃度」の確実な指標はない

ママ美 私がいま、ビタミンDが不足してはいないかどうか、どうしたら分かるのでしょうか。

正美 とても良い質問ですね。健康な人の場合、ビタミンDの血中濃度が○○ミリグラム以下なら不足という確たる指標があればよいのですが、残念ながら、そういう指標はありません。骨の病気などで検査を受ければ、血液1ミリリットルあたり20ナノグラム(ナノは10億分の1の単位)未満だとビタミンD欠乏症と診断されるようです。

しかし、これは治療レベルの話なので、健康な人が予防のために、ビタミンDの血中濃度がどれだけあれば十分かをめぐっては、医師の間でも意見が分かれています。ビタミンDの効果を重要視する医師は少なくとも30ナノグラム以上は必要だといっていますが、定説にはなっていません。

いまは、ビタミンDの重要性が徐々に認識されつつある状況だと考えています。日頃から、ビタミンDの多い魚介類と野菜・キノコ類、乳製品をよく食べ、外で散歩することを心掛けていればよいのではないでしょうか。

第29回の記事では、ゲノム編集トマトの記事に関するメディアリテラシー講座を披露します。