第22回 低温調理は食中毒にご注意

2020年10月15日

こんにちは、小島正美です。きょうは、最近はやりの低温調理について考えます。低温だけに、注意すべきは食中毒。安全に料理を楽しむための温度と時間について考えましょう。

ネット上のレシピは安全性に?なものも

ママ美 きょうは我が家のキッチンからお届けです。正美さんから、先日、昆虫スナック菓子をごちそうになったので、きょうはお礼に私が料理をふるまいます。はい、どうぞ。

正美 これは、とても分厚いローストポークですね。

ママ美 買ったばかりの低温調理器を使って、ネット上のレシピを見ながら料理しました。

正美 いま流行の低温調理の料理ですね。最近は、温度を調節しやすい専用の調理器具も販売されていて、家庭でも人気があるようですね。たしかにおいしそうにみえます。

ママ美 分厚いお肉が、ふわっと柔らかく仕上がります。私はとても気に入って、最近よく低温調理をしています。

正美 それはすごい。プロ並みですね。低温調理は、食材を真空または密封包装したうえで低い温度で湯せんする調理方法です。素材のうま味を逃さず、おいしく調理できる方法として、もともとはプロの料理人が実践していたものなので、ママ美さんもプロ並みに実践しているわけですね。

ママ美 それほどではありません。あくまで調理器頼りで、そこまでではないんですよ。

正美 素人が安易に低温調理に手を出すと、病原菌による食中毒が心配です。今回は、何度で、何分くらい湯煎(ゆせん)したのですか。

ママ美 ぎょっ。突如、本題に入りましたね。でも大丈夫。レシピに書いてあったとおりに、60度で30分間、きちんと湯煎しました。

正美 60度とは、湯温のことですか?

ママ美 もちろん、そうですよ。ゆでた温野菜とパンも用意しました。無農薬の野菜を用意したかったのですが、急だったので手に入りませんでした。

正美 無農薬でも通常の野菜でも健康へのリスクは変わらないと思いますが、それはさておき、ママ美さん、せっかくのおいしそうなローストポークですが、本当に食べて大丈夫でしょうか。野菜とパンはともかく、肉はちょっと心配です。

ママ美 え! どうしてローストポークが心配なのですか。

正美 食中毒の危険があるからです。60度で加熱するなら、30分は短すぎます
食肉の食中毒防止のための加熱条件として、厚生労働省は肉の中心部を「75度以上1分間」加熱することが必要としています。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000049964.html

ママ美 でも、75度もの高温で加熱してしまったら、低温調理にはなりません。料理本では、低温調理の理想的な加熱温度帯は「58~65.5度」とされているようです。

正美 そのくらいの温度が、最も低温調理の良さを引き出せるようですね。そして一般的に言えば、確かに75度では低温調理にはなりません。
よく知られている牛乳がよい例です。低温殺菌牛乳のことです。これは63~68度で30分間加熱して有害な菌を殺す殺菌法です。通常の牛乳は120~130度で1~3秒の殺菌です。低温だと死んでいない菌もあるので、やはり食中毒には気を付けねばなりません。

大事なのは肉の中心温度です

ママ美 となると、低温で調理しながら、食中毒もしっかり防止するにはどうすればいいのかしら。

正美  低温の時は、より長時間、加熱しましょう理屈のうえでは、それで同等の殺菌効果が得られるとされています。「75度以上で1分間」と同等の効果を得るためには、60度だと計算上は71分間加熱すればよいとされています。低温殺菌牛乳のように、63度なら30分間で同等になります。

ママ美 え~。60度だと71分間も加熱しなくてはいけなかったんですか!ぜんぜん足りなかったわけですね。いい加減なレシピだわ。
それにしても、60度と63度の差の3度ちがうだけで、必要な加熱時間は40分も変わってくるなんて、知りませんでした。

正美 ネットの上のレシピはやはり、玉石混交なので、鵜呑みにせず、加熱温度や時間は根拠を確認した方がいいですね。それと、もう一つ気を付けてほしいのは、60度の湯に肉を浸して、71分間湯煎すれば大丈夫という意味ではないことです。ここで75度とか60度といっているのは、「湯の温度のことではない」のです。

ママ美 え? どういうことですか?

正美 湯温ではなく、「お肉の中心部分」の温度のことをさしています。つまり、殺菌効果を得るには「肉の中心部分が60度に達してから71分間、加熱する」ことが、計算上は必要ということです。しかも、この基準は比較的ゆるい条件とされているので、私なら、この基準以上の加熱をします。キリの良い「65度で30分」(九九の計算で6×5=30)と覚えておくと良いのではないでしょうか。

中心温度計で「65度30分(ロクゴ30)」

ママ美 「ロクゴ30」の加熱を心がけるようにします。でも、お肉の中心部の温度なんて、どうやって測ればいいのかしら。

正美 先が細くなっていて、食材に突き刺せるようになっている「中心温度計」が売っていますので、それを使うことをおすすめします。しばらく加熱した後に、お肉に突き刺して測ってみる。65度に達したら、そこから30分間加熱するといいでしょう。
また、豚肉やジビエは熱に強い細菌がいるので低温調理には向いておらず、避けた方がいいでしょう。

ママ美 よく分かりました。でも私は、正直に言って、食中毒はひどめの腹痛を引き起こす程度で、命にはめったに関わらない気がして油断してしまうのです。残留農薬や化学物質の方が、がんなどの病気につながるイメージがあって気になります。

正美 国立がん研究センターなどが言っているように、がんの主な原因は喫煙、ウイルスやピロリ菌による感染(子宮頸がん、肝臓がん、胃がんなど)、アルコールの飲み過ぎ、肉や塩分の取り過ぎ、野菜不足、運動不足、偏った食事です。
食品に含まれる微量の残留農薬が、がんを引き起こすと考えている科学者はほとんどいません

ママ美 そうなんですね。

正美 残留農薬や食品添加物のリスクを気にするなら、食中毒にもっと気をつけたいですね。いま一番要注意なのは、主に鶏肉のレバーやモモ肉で起きているカンピロバクター(細菌)です。年間で300件前後の発生があり、患者は2000人を超えています。生肉は食べないこと、そして75度以上で1分間の加熱を忘れないようにしたいものです。

もう秋ですね。キノコによる食中毒も要注意です。こちらは死ぬ場合があります。ちょうど農水省が注意を呼びかけています。そのサイト(以下)も読んでおきましょう。
(農水省HP)秋の味覚にご注意を!キノコを安全に美味しく食べるために
https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/foodpoisoning/mushroom.html

 きょうのレッスンは、低温調理はゆっくりと料理をするので、スローライフを連想させ、なんとなく健康によいというイメージがあります。確かに高温でジャガイモを揚げたり、野菜炒めをすると発がん性物質のアクリルアミドが微量ながら発生します。かといって、低温すぎると食中毒のリスクが高くなります。完全無欠な食べ物はないです。そういう中で食べ物による健康リスクで大きいのは食中毒だということをぜひ覚えておきたいです。