第21回 昆虫食ブームを考える(後編) 有望な食材として定着するための課題とは

 こんにちは、小島正美です。きょうは「昆虫食」について考える後編です。食料危機の解決策として近年、注目を集めている「昆虫食」について、有望な食材として定着するための課題を考えます。今回も、昆虫菓子を食べながら議論しましょう。 

カギは味、価格、抵抗感 

正美 前回は無印良品の「コオロギせんべい」を食べながら議論しましたが、きょうは別のお菓子を用意しました。ママ美さん、お一ついかがですか。

ママ美 いただきます。もぐもぐ…。
ちょっとかたくて、ぼそぼそしていますね。私は前の「コオロギせんべい」のほうが、おいしかったかな。これもコオロギが使われているのですか?

正美 はい、表示を見ると、カナダ産コオロギを使っているようですね。東京・上野のアメ横商店街にある自動販売機(写真1)で買ってみたスナック菓子「スーパーコオロギ玄米スナック」(写真2)です。 

自動販売機で昆虫菓子は、このように筒状のケース入りで売られていました。タランチュラ8㌘2600円、昆虫ミックス15㌘1500円など、いずれも値段が高い!
スーパーコオロギ玄米スナックの中身です

正美 自動販売機からは、商品が円筒形のプラスチックケースに入って出てきました。楽しい体験でしたが、私も味はちょっと、合わなかったですね。
 この自販機には、ほかにサソリ、クモ、バッタ、アリなども売られていて、豊富な品ぞろえでした。
 ただ、価格が1000~2000円台と、かなり高かったのでなかなか買えません。価格が高いうえに、味がよくなければ、一般には広まらないのではないかと感じました。

世界の昆虫食人口は20億人 

ママ美 消費者の抵抗については、どう考えますか。お友だちにコオロギせんべいを食べたことを話したら、食べたがらない人もいました。私も、サソリやクモと言われると、ちょっと食べる自信がありません。

正美 粉末なら抵抗はないでしょうが、サソリやクモはそのままの形が見えるから、消費者の抵抗はあるでしょうね。そこが課題の一つでしょう。
 ただ、私も子どものころ、イナゴを食べたことがあると話しましたが、昆虫は元々、日本でも食べられていました。
 また、東南アジアやアフリカでは今でも食材として広がっていますし、フィンランドでは、コオロギに砂糖をかけた菓子や、ローストした商品が自然食品系のスーパーに普通に並び、高級レストランのメニューにもなるなど普及しています
 世界の昆虫食人口は、約20億人にのぼるとされていますので、日本でも、慣れれば広がる可能性はあると思います。

ママ美 そうなると、今度はそんなにたくさんの昆虫を効率よく育てられるのかが気になりますね。

正美 牛や豚などの家畜に飼料として与えている穀類などを昆虫の生産に振り分ければ、肉や魚に匹敵する生産が可能とされています。昆虫の中でもコオロギは味が良いため、近年は欧米でも普及しつつあって、現在アメリカやカナダ、フィンランド、タイに食用コオロギを製造販売する企業があるそうですよ。
 というわけで、コオロギが食料として広がるかどうかは当面、製品の価格と味がカギで、さらには採算がとれるレベルでコオロギの大量生産が可能かどうかにかかっているといってもよいでしょう。 

意外にも大手企業は消極的! 

ママ美 日本でも、大手企業が進出するのかしら。

正美 2019年に東京で行われた食品展覧会で、ある大手化学メーカーが「変わる食糧 コオロギがもたらす新しい未来」と記されたチラシを配り、コオロギの大量生産を計画していることを公表していました。しかし、いくつかの課題があるため、計画は今なお検討中だそうです。

 というのは、コオロギは成長が早く、卵から出荷までの期間が2カ月程度と短いのが大きな利点ですが、生育が気温に左右されてしまうのが最大の難点なのです。
 四季のある日本では、気温が低い冬になると成長が遅くなって、出荷までに時間がかかってしまうのです。つまり、1年を通して出荷量を安定させることが難しく、これがけっこうなネックになっているようです。

 また、大きなスペースで一緒にたくさん飼うほうが当然、生産効率が良いわけですが、コオロギは共食いをする性質があるため、飼育密度を高くしにくいという難点もあります。つまり、鶏のブロイラーのように濃密に飼うことができないのです。
 さらに、エサの自給も難しく、輸入するとエサ代もけっこう高くついてしまうとのことでした。

ママ美 現時点では、大手企業が参入するほどの、採算あるビジネスとまでは見られていなさそうですね。

正美 そう言えると思います。しかし、昆虫食が広がりを見せつつあるのはたしかです。

 たとえば、昆虫食の製造販売をしている「TAKEO」(本社・東京都台東区)が8月下旬、弘前大学と共同でトノサマバッタの生産技術開発を始めたと公表しました。コオロギよりも環境負荷が低いという触れ込みでした。日本人が昔から食べてきたイナゴはバッタの一種ですから、バッタへの抵抗はないでしょうが、手ごろな値段で買えて、おいしいかどうかがすべてですね。いくら環境によい食べ物といわれても、それだけの理由で購入する消費者は少ないでしょう。
 昆虫食が今後、どんな展開になるのかを引き続き、注目していきましょう。

 きょうのレッスンは、昆虫の養殖は確かに牛や豚などの家畜に比べて、水や穀類の節約になりますが、養殖の生産効率性、味、価格の面で課題が多いということです。大豆でできた代替肉と比べると普及に時間がかかりそうです。