第70回 消費者庁の食品添加物不使用ガイドラインの“効力”は半減したのか?

こんにちは、小島正美です。「無添加は安全安心」や「天然は安全で、合成は危険」といった誤解が生じないよう、消費者庁は今年3月末、事業者が守るべき10の類型を示した「食品添加物の不使用に関するガイドライン」を公表しました。

https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_sanitation/food_additive/assets/food_labeling_cms204_220701_03.pdf

6月には消費者にも理解しやすいようにチラシも作成しました。このガイドラインは、たとえば、法的定義のないあいまい用語である「化学調味料」に関しては、「化学調味料無添加」といった表示はダメですと言っています。

ガイドラインの対象が容器包装上の表示という制約はあるものの、食品添加物の科学的理解を促す上で一歩前進だと見ています。ところが、世の中には「無添加こそが安全だ」と言いはる人たちがかなりいます。今年7月の参議院選挙で1議席を獲得した参政党も、そんなスローガンを叫んでいましたね。

消費者庁が識者とともに議論を重ねて作成した不使用ガイドラインがちゃんと機能すれば、消費者に誤認を起こす無添加表示は減るだろうと予想していましたが、事態はそう簡単ではないようです。

消費者庁に猛抗議

最近、目に止まったのが、旧民主党政権で農水相を務めた山田正彦氏(弁護士)の発言です。山田氏は消費者庁のガイドラインが公表されたあと、無添加表示を認めるべきだという運動を起こしています。さすが行動力旺盛な山田氏ならではのアクションです。その運動成果があったのか、7月11日のオフィシャルブログで以下のように書いています。

「少し嬉しい報告です。食品添加物の表示についての消費者庁の態度が少し変わってきました。・・・消費者庁が動いたのは、皆さんがガンガン消費者庁へ抗議の電話をして頂き、また国会議員との意見交換会にも全国から大勢の方にオンラインで参加してもらったおかげです。何より4人の国会議員に消費者特別委員会で大臣に厳しく問いただして 頂いたことも大きかったと思います。国会で大臣から本当に無添加であり化学調味料不使用であれば 消費者庁は何ら処分できない旨の答弁を引き出すことができました・・・」

こうした動きを見ると、山田氏のフットワークの軽さ、爆発的パワーに感心しましす。消費者庁は抗議の電話でさぞヘトヘトになったことでしょう。

「化学調味料無添加」の表示はどうなるのか!

気になるのは「本当に無添加であり、化学調味料が不使用であれば、違反の処分ができないという答弁を引き出した」というくだりです。山田氏が言っていることが真実なら、ガイドラインは確かに骨抜きになります。そもそも化学調味料という言葉は消費者の認識もまちまちだし、事業者間で統一された言葉ではありません。

化学調味料の元をたどれば、NHKが50年以上も前に料理番組で考案した言葉です。「味の素」という商品名を使えなかったのが理由のようです。しかし、いまではそのように理解している消費者は少ないはずです。化学的な反応によってできた調味料が化学調味料なら、塩も砂糖もアミノ酸エキスも化学調味料と呼んでもおかしくありません。

こんな紛らわしい言葉を野放しにしておくことは許されません。消費者庁はガイドラインの類型2で「人工甘味料不使用のように、人工、合成、化学、天然の用語を使った表示」を食品表示法違反だとしています。

消費者庁はきっぱりと否定

ところが、山田氏のオフィシャルブログで「真面目に無添加食品を作っている業者、多くの市民が一緒になって、これまで通り無添加・化学調味料不使用などの表示を堂々と続けようと 宣言(アピール)したことも良かったと思います。生協の方の話では、これまで消費者庁が頑として許さないと言っていた10の類型のうち半分までは押し戻すことができたようです」と書いています。

10の類型のうち半分は押し戻すことができたという意味は、10項目の類型のうち半分は効力を失ったということです。「押し戻す」という言葉は、山田氏を主とする政治力でガイドラインの効力を失わせたという響きが感じられます。

もし、その通りなら、由々しき事態です。

消費者庁の意見を聞こうとしていた矢先の8月30日、消費者庁食品表示企画課の宇野真麻課長補佐が講師となったセミナーが消費者団体「FOOCOM(フーコム)」の主催でありました。講演のあとの質疑でさっそく「山田氏のブログの内容は本当か」と尋ねてみました。課長補佐は間を置かず「山田さんのブログは確認しているが、その見方は全く当たらないと思っている」ときっぱりと答えました。その力強い言葉に消費者庁の意気込みを感じました。

ガイドラインを守ろうとした保健所職員が異動

しかし、安心してはいられません。山田氏の先のブログに次のようなエピソードが登場しています。

「島根県松江の老舗 青山蒲鉾店の青山さんが興味深い話をしていただきました。マルシェに出品しようとしたところ、あなたのお店だけ無添加の表示を認める訳にはいかないと保健所職員が怒鳴り込んできたそうです。承服できなかったので知り合いの県議会議員さんと保健所長のところに行き、いきさつを話したら、保健所長が謝罪して、怒鳴り込んできた職員は職務を外されてどこかに異動されたそうです。闘いはまだまだこれからです。消費者庁・保健所等から理不尽な話があれば、私たち食品表示ネットワークに参加している有志の弁護士でも、当面できる範囲で対応させていただきます」

やはり山田氏の行動力はすごい。不使用ガイドラインの正当性を守ろうとした保健所の職員が異動させられたという事実が本当なら、山田氏が言うようにガイドラインは押し戻されつつあるといえるのではないでしょうか。そのすさまじい政治力と行動力には驚くばかりです。

いまなお山田氏らのネットワークはガイドラインを骨抜きにするために熱い「闘い」を展開しています。不使用ガイドラインの検討会では「主婦連」など多くの消費者団体がガイドラインに賛同しましたが、いまのところ、ガイドラインを死守しようというほどの行動力は見られない。一国の元総理が暗殺されたというのに、その死を悼むよりも市民勢力から国葬反対の声だけがこだまするこのご時世。ガイドラインの効力が消費者庁の狙い通りに発揮されるかどうかは、ガイドラインを守ろうとする市民勢力と阻止しようとする市民勢力の力関係にかかっているのではと見ています。