第65回 週刊誌は、いつから消費者の味方をやめたのか

こんにちは、小島正美です。
消費者庁が3月末、「食品添加物の不使用表示に関するガイドライン」を公表した。その狙いは、消費者に誤認を与える無添加・不使用表示にストップをかけるためだ。言い換えると消費者がだまされないための警告シグナルである。にもかかわらず、 2誌の週刊誌が「ガイドラインは改悪だ」とばかり無添加表示を推奨する記事を載せた。週刊誌は消費者の味方だと思っていたが、どうやら違っていたようだ。

危険性を煽る評論家諸氏はいつも同じ顔ぶれ

2誌は週刊ポスト(5月20日号)と週刊新潮(6月9日と16日号)。週刊ポストは記事の冒頭で「健康志向の高まる現代社会にあって、時代に逆行するガイドラインと言うほかない」と書いている。評論家のコメントではなく、記者の地の文だ。そのあと、いろいろな食品添加物が健康に悪いと書き連ねて、最後の締めくくりで「買い物の際はこれまで以上にパッケージをよくみて、正しい知識で健康を守ってほしい」と結んだ。

記事では健康被害が懸念される添加物一覧を載せ、スクラロースや過酸化水素、グリシン、ウコン色素(クルクミン)など約30物質を挙げている。私は眠れないときにアミノ酸のグリシンを重宝している。グリシンのどこが危ないのだろうか。

一般的に食品添加物や農薬の使用に慎重な生活協同組合でさえも、添加物を使った加工食品を数多く販売しているというのに、週刊誌は、食品添加物を避けることが正しい知識であり、健康を守ることに通じるという大前提で記事を書いている。しかも、記事に登場する評論家諸氏はいつもと全く同じ顔ぶれである。「また、この人たちか!」となんの新鮮味もなく、食傷気味である。裏を返せば、食品添加物の危険性を煽る人たちは、ここに登場する諸氏くらいしかいないんだということなのだろう。

週刊誌は消費者庁検討会の審議を無視

今度の記事を読んで、一番奇異に感じるのは、記者たちがガイドラインのできるいきさつを全く知らないで書いていると思われることだ。検討会でのやりとりをしっかりと聞いていれば、無添加を強調する事業者の肩をもつはずはないと思うのだが、記者たちはガイドラインの検討会を聞いていなかったからこそ、あんな記事が書けるのだろう。

いうまでもなく、ガイドラインの狙いは消費者に誤解を与えるような表示を改善しようというものだ。もうこのあたりで消費者をだますような表示はやめにしようという消費者のためのガイドラインである。その証拠に消費者庁の検討会では主婦連合会をはじめ多数の消費者団体は「無添加不使用表示は消費者に誤解を与えている」という点で賛意を表明している。

たとえば、「保存料不使用」と表示しながら、こっそりと別の食品添加物を保存目的(日持ち向上目的)で使っていたら、これは消費者をだます行為である。また、「化学調味料無添加」と表示しながら、原材料で化学調味料(そもそも化学調味料に定義はないが、ここではグルタミン酸ナトリウムと仮定)と同じ素材成分を使っていたら、これまた消費者をあざむく表示といえる。

だからこそ、食品添加物の使用に慎重な消費者団体でさえも、消費者に誤解を与えるような無添加・不使用表示はやめましょうと賛同したわけである。

こうした経過と事情を知っていれば、通常の記者感覚なら、「無添加表示で消費者をだますのはけしからん。消費者を欺く無添加表示はこれこれだ!」と怒りに震わせておかしな表示を摘発するはずだ。消費者の味方をもって任じる週刊誌なら、表示の誤認から消費者を守ってくれると期待していたが、記事にはそういう消費者的発想が全くない。

無添加表示と派手な見出しは似た者同士か

あえて悪く言えば、今回の週刊誌の記事は、無添加表示でうまい商売をしている事業者(もちろん、努力して無添加の商品を製造している事業者がいるのは承知しているが)の肩をもつ提灯記事である。そして、食品添加物の危険性を常に煽る一部市民団体の広報誌に堕した記事である。

私から見ると、週刊誌は野武士のような頼もしい存在で、右も左も関係ないはずだが、悲しいかな、食品添加物や農薬となると、一部市民団体や一部政治家の宣伝広報誌になってしまうようだ。

週刊誌は一般に派手な見出しで読者の注目を引き、雑誌を買わせるメディアである。中身の記事よりも、見た目の表示で売る戦略である。これは、まるで無添加という派手な表示でモノを買わせる手口とそっくりではないか。週刊誌が無添加表示の事業者の肩を持つところを見ると、見出しで売る週刊誌と無添加で売る事業者は案外と気脈が通じた似た者同士なのかもしれない。