第35回 不正確な報道に対抗する方法(中)――事前の対策:取材を受けた時に実践すべき2つのこと

こんにちは、小島正美です。今回は公的機関のファクトチェックについて話す予定でしたが、「不正確な報道が出ないようにする、事前の対策はないのか」というご質問をいただきました。たしかに、新聞にせよ、週刊誌にせよ、テレビにせよ、記者の取材を受けた人の中には、あとで記事やニュースを見て、「なぜ、こんな記事になっちゃったの?」「そんなこと言ってないけど!」「私の言ったことがちゃんと書かれていない!」と感じた、苦い経験をもっている人がいるに違いありません。訂正を求めても、なかなか応じてくれず、結局、泣き寝入りというケースもあるように思います。
そこで予定を変更し、今回はそのような事態を招かないための事前の方法について述べたいと思います。

ママ美 記者は、たくさん取材しても、記事にするのはどうしてもその一部分になるので、行き違いが生じてしまうのではないでしょうか。

正美 そのとおりです。正確に報道してもらうためには、「取材されて話した内容のうち、書かれるのは一部」ということを前提にすることが重要です。

ママ美 具体的にはどうすればいいのでしょうか。

対策1:「最も伝えたいこと」を簡潔に強調する

正美 二つあります。
一つ目は、「自分の言いたいこと、一番伝えたいことは○○です」と、必ず明確に強調し、念を押すことです。できるだけ、簡潔な方がいいでしょう。そう言われれば、記者はまちがった解釈をしなくなりますし、その言葉が印象にも残るはずです。

ママ美 なるほど。正しく、確実に伝わりやすいというわけですね。だったら、きっとそのとおりに書いてくれますね。

正美 思ったとおりに報道されるとは限りません。

ママ美 え?どうしてですか?

正美 記者は、取材で材料を集め「ストーリー」を描きながら記事を書いていきます。話す人が、言いたいことを強調し、主張が正確に伝わっても、その内容がそのストーリーに合わないことがあります。その時はボツ(記事に採用されない)になります。
ただ、主張が誤って書かれて、あとで「こんな記事になるなんて!」と落胆する被害は受けなくてすみます。

対策2:事前に記事の事実関係を確認する

正美 二つ目は「私のコメントがどういう内容になったかを、記事が出る前に必ず教えてください」と記者に約束させることです。本来なら、自分のコメントがどういう文脈で使われているかも知っておく必要がありますから、前後の部分も含めて、事前に口頭かメールでよいから送ってください、と頼むことが必要です。

ママ美 でも、新聞やテレビ、週刊誌の記者は記事を事前に見せてくれないことが多い、と聞いたことがあります。

正美 良心的な記者なら、事前に記事を見せるはずです。それが誠実な対応です。なぜなら、記事は、記者と被取材者(取材を受ける学者など)の共同作品だから、取材を受けた人は記事を事前に見る権利があると、私は思っています。私が現役(毎日新聞の記者時代)のころは、ほとんどの場合、事前に見せていました。特に健康・医療に関する記事は間違いがあれば、読者の命にかかわるので、間違いを回避するためにも見せていました。

ママ美 記者からの依頼で取材を受けた人が事実関係を確認させてもらえない、というのはどういう理由でしょうか。

正美 記者たちは、編集権の侵害だととらえているのでしょう。しかし、事実関係の事前チェックをしてもらうことは、全く侵害にはあたりません。万が一、論調など事実の誤り以外について変更を求められることがあったら記者は「それは私の視点、ものの見方なので変更はできない」と伝えればいいだけのことです。
なお、私の経験では、事前の訂正は事実関係の指摘にとどまり、私の描くストーリー(論調)に訂正や変更を求められた例はありません。

ママ美 記事は、記者が勝手に書いているようにみえて、実は被取材者との共同作品なんですね。よく理解できました。

正美 本日は事前の防止策についてお話しました。次回は、不正確な記事が出てしまった場合について、公的機関のファクトチェックについて述べたいと思います。