第66回 地球温暖化原因論争は科学的な事実を争うレベルで勝負してほしい

こんにちは、小島正美です。
通常は食の安全や健康問題などに関する話題を書いていますが、今回は番外編です。温暖化で本当に災害が増えているのか、気候変動の将来予測はどの程度確かなのかをめぐる論争です。この問題に関して、国立環境研究所の江守正多氏(東京大学未来ビジョン研究センター教授)が「気候変動科学論争の現在地」(7月12日・YAHOO!ニュース)と題して、懐疑論派に対する陰謀論めいた記事を載せています。この記事の初出は岩波書店の月刊誌「世界」6月号ですが、とても科学者とは思えない書きっぷりで、読者をミスリードする内容だと思い、あえて筆を執りました。

懐疑派の本が続々と登場

地球温暖化もしくは気候変動の原因をめぐっては、主に化石燃料の消費に伴って発生する二酸化炭素(他に牛のメタンガスなどもありますが)を主原因とする考え方が国内外で主流です。こうした中、最近、主流派の考えに異を唱える本が出てきています。

たとえば、「気候変動の真実 科学は何を語り、何を語っていないか?」(スティーブン・クーニン著)▽「『脱炭素』は嘘だらけ」(杉山大志著)▽「SDGsの不都合な真実 『脱炭素』が世界を救うの大嘘」(川口マーン惠美ら著)▽「『地球温暖化』狂騒曲 社会を壊す空騒ぎ」(渡辺正著)▽「地球温暖化の不都合な真実」(マーク・モラノ著)などです。ユニークな本としては、反原発運動で知られる広瀬隆氏が著した「地球温暖化説はSF小説だった──その驚くべき実態」もあります。

クーニン氏の 主張は説得力十分

他にもたくさんありますが、中でも説得力を感じるのは、米国のオバマ大統領の下で米国エネルギー省の科学担当次官を務めたクーニン氏の上記の本です。クーニン氏は物理学、エネルギー技術・政策、気候科学などの分野で200以上の査読付き論文を発表してきた、米国を代表する科学者のリーダー的存在です。

そのクーニン氏が「気候変動は化石燃料の消費など人為的な要因だけではなく、自然変動も大きい。過去からの統計的事実を見れば、ハリケーンなど災害の激甚化・頻発化は起きていない。コンピュータを用いた数値予測モデルは科学者の意図によって操作でき、温暖化の将来予測は不確かだ」などと科学的事実を挙げて主張しています。

かなり説得力があり、米国ではベストセラーとなり、日本でも新聞や雑誌の書評でも取り上げられるようになりました。おそらくクーニン氏がこんな本を書いても、過去の栄光に満ちた学者としては何の得もないだろうと思われます。しかし、あえてクーニン氏が書いたのは、本人も述べているように科学者の良心からだと思います。科学的な事実がねじ曲げられて伝えられていることに対して「科学者として黙っているわけにはいかない」という心境に達したのでしょう。

「化石燃料業界のプロパガンダ」は安易な陰謀論

こうした科学的反論が出ている状況下で江守氏の記事を読んだわけですが、江守氏は、日本の大手企業の名を冠したシンクタンクに所属する専門家が、あからさまな気候変動懐疑論を発信していることを問題視しているようです。その専門家がだれかについては、江守氏は「僕もよく知っている人物ですが、本稿は人物を晒す意図で書いているものではないので、仮にT氏としています」と書いています。

この種の問題に関心のある人なら、T氏を推察することが可能でしょうが、一般の人はまず分からないでしょう。そのシンクタンクと専門家はキヤノングローバル戦略研究所の杉山大志・研究主幹です。東京大学大学院(修士)を出た物理学者です。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の執筆者でもあります。れっきとした科学者です。

杉山さんとは、「食生活ジャーナリストの会」主催のセミナーで講師に招いたり、シンポジウムでご一緒するなど、気候変動問題に関して日頃から情報を交換しています。私は、杉山さんのほかにも、CO2主原因説や気候脅威論に疑問をもつ10人程度の専門家とも情報を交換したりしていますから、懐疑派の専門家がどういう人たちかは、ある程度分かります。

江守氏は、こうした懐疑派論に対して、「基本的に化石燃料業界等のプロパガンダ活動である」と書いています。まるで杉山さんらが化石燃料業界の代弁者のごとくに読めますが、全く事実に反しています。こういう見方こそが推定に基づく安易な陰謀論だという気がします。江守氏の記事を読んだ懐疑派の知り合いからは「化石燃料業界からお金をもらって活動できたら、いまよりずっと楽な生活が送れるのに」とあきれ顔のメールが届きました。

私の知る懐疑派の専門家たちは、CO2主原因説や温暖化脅威論に疑問をもって本を出したりしていますが、みな自らの信念に基づいて活動しています。

あくまで「ファクト」を重視

江守氏は「懐疑論・否定論には一定の社会的なニーズがあります」などと書いていますが、杉山さんは社会的なニーズや世間の顔色をうかがって動いているわけでありません。科学者として、あくまでファクト(事実)を重視しています。「過去100年に気温が約1度上がったけれど、台風などの自然災害は激甚化などしていない。シロクマも減っていない。たしかに温暖化の原因の一部はCO2だろうが、他の要因もまだ排除できるほどの十分な根拠はない」などと述べ、CO2をゼロにするという極端な政策は日本経済に大きな痛みを伴うだけに、慎重に考えるべきだと主張しているのです。

記事は推定と個人的な見方ばかり

また、江守氏は「大手企業の名を冠するシンクタンクから発信されることが許容、もしくは奨励されてきたのかに思いをめぐらすと、もやもやはさらに深まります。日本の産業界の一部には、気候変動対策の足を引っ張ることに合理性を見出す、・・ように動いてしまう・・」と書いています。

これだと、まるで杉山さんがキヤノンの宣伝担当として、気候変動対策にブレーキをかける役割を果たしているように読めます。学者として立派な江守氏が、なぜ、こんな軽々しい話を記事に載せるのかよくわかりませんが、そもそもシンクタンク自体が懐疑的な情報を発信しているわけではなく、杉山さんという一科学者が科学的な事実に基づいて書いているだけです。親会社のキヤノン自体は気候変動対策に積極的に取り組んでおり、後ろ向きの気候変動対策に合理性を見出しているという事実もないです。

むしろ、私の個人的な見方ですが、杉山さんのような言論はキヤノンにとっては目障りなのではと思うくらいです。それでも杉山さんは書いているわけです。

今後は科学論争につながる記事を期待

江守氏は「彼ら(筆者注・杉山さんら懐疑派のこと)は論争に勝つ必要はなく、そこに論争があると、見ている人たちに思わせることができれば目的を十分に果たせます」と書いていますが、これも全く違います。

杉山さんらは科学の世界で真っ向勝負し、論争に勝ちたいと考えています。論争があると思わせるだけで十分に目的を果たせるといった、そんな皮相な考えで論争に挑んでいるわけではありません。だからこそ、杉山さんは「地球温暖化のファクトフルネス」や「『脱炭素』は嘘だらけ」など、論争に堪えうる書物を出して、一石を投じているわけです。

江守氏はNHKの科学番組にもよく登場する影響力のある科学者です。今回のような推定と憶測交じりの記事ではなく、杉山さんやクーニン氏の本のどの部分が科学的に間違っているか、に焦点を当てた科学的反論記事を読みたいものです。それなら科学論争につながります。今後、実りある記事をぜひ期待しています。