第77回 文藝春秋はどこまで信頼できる媒体か
こんにちは、小島正美です。みなさんは新聞や週刊誌、月刊誌をどの程度信頼しているでしょうか。今回は、メディア媒体がどこまで信頼できるかに関する私の体験をお話しします。
東京大学教授のおかしな記事に訂正を要求
私はおかしな記事を見つけたら、訂正を求める活動を長くやっています。唐木英明・東京大学名誉教授とともに共同代表を務めるメディアチェック集団「食品安全情報ネットワーク」(FSIN)の活動がそれです。今年2月には、月刊「文藝春秋」2月号に掲載された鈴木宣弘・東京大学教授の記事に対して訂正を要望しました。
鈴木氏の記事は間違いが多く、裏付け不足の記述も見られます。米国の一企業が日本の食品安全基準の設定を裏で操っているかの如く陰謀論を振りまき、日本のベンチャー企業が配ってもいないゲノム編集トマトを小学校にさも配ったかのように書きたてる。大げさに言えば、フェイクニュースに近い記事です。詳しい訂正内容はFSINのホームページを御覧ください。
文藝春秋「遺伝子組み換え食品の恐怖」の記述に関する訂正要望 (google.com)
文藝春秋に誠意なし
もちろん、一個人がどんな意見を披露しようが、それ自体は尊重しますし、文藝春秋がどんな記事を載せようと自由です。ここで強調したいのは、間違った記事を読まされた読者に対する配慮が文藝春秋にあるかどうかという点です。
これまでの私たちのメディアチェック活動から言って、訂正を要求しても、返事を全く返さない言論媒体は信頼性に欠けると言っても間違いないでしょう。文藝春秋は今に至るも全く返事を寄こしていません。「その訂正には応じられない」とか「指摘された箇所は間違っていない」とか何かしら返答が来るならともかく、全くの梨のつぶてです。
これまで別の記事で何度か朝日新聞に訂正を求めてきましたが、「訂正の必要なしと判断しました」など、あまりにもそっけない返答もありました。それでも返答が来ないよりはましです。毎日新聞に対しても、何度か訂正を求めてきましたが、返事は必ず来ています。
人と人の関係も同じでしょうが、相手が誠実な人かどうかは付き合ってみないと分かりません。メディアも同じです。記事を表面的に読んでいるだけでは、メディアの本性は分かりません。こちらが鋭いボールを投げつけたら、相手がどう投げ返すか、その反応で初めて相手の本当の性格が分かります。
文藝春秋の場合は、誰が見ても明らかに間違いだという点にしぼって訂正を求めているので、こちらとしては訂正要求に自信をもっています。「返答なし」は、全く誠意なしといえます。
メディアの任務は読者に事実を伝えること
文藝春秋で特に知っておくべきことは、読者から記事の誤りを指摘されたということは、他の読者に誤った情報を伝えたことになるという事実です。その誤った事実を確認するのは記者の基本的な仕事であり、責任です。
私が毎日新聞の現役記者のときは、間違いを犯したとき、私は菓子箱をもって謝罪に飛んでいったことが何度もあります。訂正記事を出したあとの数日間は取材する元気もなくなり、憂鬱な気分になったものです。しかし、訂正が掲載されることによって、少なくとも間違いがそのまま活字として永遠に残ることは避けられる。「読者に正しい事実が伝えられたので、訂正を載せてよかったのだ」と自分に言い聞かせて、再び元気を取り戻していました。
文藝春秋の記事担当者はいまごろ、どんな心境なのでしょうか。せめて私のように憂鬱な気分になってくれていたならば救われるのですが、どうやらそんな人間らしい気分は全く抱いていなかったことが分かりました。
なんと同じ文藝春秋4月号に「日本の食が危ない!」と題して、2月号よりも、もっと大仰な鈴木氏の記事が載ったのです。これは明かに訂正要求に対する挑戦的な返答であり、報復措置だと感じました。「文句があるなら言ってみろ。こっちは倍返しでお灸をすえてやるぞ」とでも言いたげな態度にみえました。
非常に残念なのは、鈴木氏の記事の誤り(誤報)をいまも誤りとは知らずに固く信じている読者がいることです。訂正を載せないのは、読者に対してあまりにも不誠実です。
記者という存在は、事実(または真実)と異なる記事を知った場合は、すみやかに読者に正しい事実を知らせる責務があります。文藝春秋は明らかにこの「読者に事実を知らせる」というメディアの基本な責務を果たしていません。これでは信頼できるメディアとは到底言えません。欠陥品を売っておきながら、お客の問い合わせに全く応じない店と同じだといえます。こんなお店はいずれお客が激減することでしょう。
鈴木氏は訂正要求を知らなかった!
実は、この訂正要求をめぐっては、さらに驚くべきことが起きました。4月15日に鈴木氏の講演会に出席した「ウェルネスニュースグループ」の藤田勇一記者が鈴木氏に「文藝春秋の訂正要求をどう考えるか」と尋ねたところ、鈴木氏は「訂正依頼の話は把握していない」と答えたのです。詳しくはウェルネスニュースグループの以下のニュースを見てください。
いくら月刊誌の編集記者でも、読者から記事に関する訂正要求が来たら、必ず記事を書いた執筆者に「訂正が来たので、ご意見をください」と尋ねるはずです。私の記者経験から言って、記者が執筆者に黙っていることは絶対にありえません。もし鈴木氏が答えたように、文藝春秋の編集記者が訂正要求を握りつぶしていたとしたら、もはや文藝春秋は言論機関としては失格だといってもよいでしょう。今回の訂正要求によって、文藝春秋の不誠実な性格が露わになりました。鈴木氏の本を出した平凡社は、私たちの訂正要求に対して、そのことを鈴木氏にすぐに伝え、全面的に誤りを認め、ホームページでそれを広告し、重版時に訂正内容を載せました。文藝春秋とは大違いです。
みなさんも、記事を読んでいて、ちょっとおかしいと感じたら、ぜひメディアの広報窓口に電話か手紙を出してみましょう。その態度で相手の信頼度が分かります。
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