第71回 農水省の広報誌での修正は、ガイドライン違反の貴重な先例になる!

こんにちは、小島正美です。第70回の記事で消費者庁の「食品添加物の不使用表示ガイドライン」の効力が半減してしまうおそれがあることを、山田正彦氏(旧民主党政権の農水相)らのネットワーク活動の言動を通じて取り上げました。今回はその続編です。

法的に言葉の定義のない「化学調味料」の不使用や「無添加だから、安全安心」といった表示が消費者の誤認や誤解を招くことから、不使用表示ガイドラインができたわけですが、では具体的にどういう表示が誤認を招くかは、裁判所の判例のように、行政機関が具体的な違反事例を示していくのが一番分かりやすい。

その意味で重要な判例となりそうなケースが今年8月にありました。農林水産省が広報誌「aff」8月号で示した無添加記載の修正事例のことです。この修正事例は今後、消費者庁の不使用表示ガイドラインの適用に対して、貴重な模範例になるのではないでしょうか。

「aff」8月号に載ったトマト加工製品の無添加表示に対する農水省の修正・削除とその背景・帰結に関しては、すでにウエッジの記事で書きましたので、これを読んでほしいです。

農水省「無添加」広報で見えた食の未来阻む〝二面性〟(Wedge) – Yahoo!ニュース
https://news.yahoo.co.jp/articles/c9db48a958aa2aed43311b1ba7c3e6d88f4c13f9

「無添加で安心安全」はガイドラインの類型6に該当

今回のブログ記事で一番強調したいのは、農水省が示した修正事例をしっかりと覚えておいて、消費者庁のガイドライン違反の適用に活用していくことです。

大事なポイントは、農水省がどんな言い方を修正・削除したのか、という点です。「aff」に載ったトマト加工製品(ケチャップとジュース)のうち4品目で修正がありました。

たとえば、トマトケチャップに関しては、当初は「保存料や着色料などの食品添加物を一切使わない安心安全なケチャップ」と記載されていましたが、「保存料や着色料などの食品添加物を一切使わない安心安全」という記述が削除されました。なぜかと言えば、そもそもトマトケチャップは保存料や着色料の使用が認められていないからです。どのトマトケチャップにも保存料や着色料が使われていないのに、「うちのケチャップは保存料不使用」とうたえば、明らかに消費者をあざむく行為になります。

消費者庁が示した10類型の不使用表示ガイドラインのうち、類型3は「食品添加物の使用が法令で認められていない食品への表示」となっています。このケチャップの記載は、法的に認められていない保存料や着色料を不使用とうたっており、どう見ても、類型3に該当(食品表示基準第9条違反)すると考えられます。

さらに、同ガイドラインの類型6は、安全や健康と結びつける無添加表示を禁止事項にしています。となれば、「保存料や着色料などの食品添加物を一切使わない安心安全なケチャップ」という言い方は、この類型6にもひっかかります。

トマトジュースは塩しか使えない

同様に違反事例の疑いは、3品目のトマトジュースでも見られました。たとえば、完熟トマトジュースに関して、当初は「塩や保存料の添加も一切ありません」となっていましたが、この部分は削除されました。また、「無添加100%トマトジュース」となっていたケースでは、「無添加100%」の表現が削除されました。

そもそもトマトジュースは製造加工時にトマトのみか食塩しか使えないのです。食塩しか使えないのに「保存料の添加はない」と記載すれば、消費者に誤解を与えることになります。これらのトマトジュースの例は、ガイドラインの類型3に該当すると考えられます。

また、詳しい説明なしに目立つ文字で「無添加100%」とうたえば、これは「単なる無添加の表示」を禁じた類型1や「過度に強調された無添加の表示」を禁じた類型10にも該当するおそれがあります。

農水省が修正・削除したこれらの事例は、消費者庁の不使用表示ガイドラインに違反する疑いがあるだけに、今後のガイドラインの適用に対して立派な判例になりうると考えられます。

ただし、不使用ガイドラインは容器包装上の表示を対象としているため、厳密に言えば、今回のトマト加工製品の場合は9条違反にはならないかもしれません。しかし、重要なのは、農水省が消費者団体などの指摘を受けて、「無添加で安心安全」や「無添加100%」といった記載を修正もしくは削除したという動かし難い事実です。

この修正・削除こそが、裁判で言えば、判例にあたります。消費者庁の検討会で不使用表示ガイドラインの内容に賛成した消費者団体は、今後、この判例を楯に「無添加表示」に厳しい目を光らせていく必要があるでしょう。