第31回 「ゲノム編集トマト」の魅力をどう伝えるか――もし私が広報プロデューサーだったら(前編)
こんにちは、小島正美です。今回は、前回で予告したように、ちょっとカッコよく、「もし、私がゲノム編集トマトを売り出す広報プロデューサーだったら、何をするだろうか!」というテーマで、2回にわたってお話をしてみます。
ママ美 仮想実験とはいえ、なぜ、またそんな突飛な役を買って出たのでしょうか。
正美 結論から言えば、学者(江面浩・筑波大学教授ら)が開発した国産初のゲノム編集トマトが、社会に受け入れられてほしいと願うからです。
農薬の削減など大きなメリットがある遺伝子組み換え作物は、登場してから25年もたつのに、いまだ日本では栽培されていません。栽培したいと希望する農家はいるのですが、反対運動が強く、もはや絶望的な状況です。
ゲノム編集作物もやはり、社会に大きなメリットがあります。加えて、今回のトマトは海外の巨大企業が開発したのではなく、一学者が長年の夢を抱き続けて作ったいわば創作品(アート)のようなものという側面もあります。私自身はゲノム編集トマトとは何の利害関係もありませんが、先生の夢が開花し、社会で多くの人に役立ってほしいという思いが強くあるのです。
ママ美 なるほど。でも、ゲノム編集作物も遺伝子を操作する食品なので、やはり反対運動は出てくるような気がします。
正美 もちろん、言論の自由のある民主主義の世の中ですから、反対運動があってもよいと思います。しかし、一方でゲノム編集トマトの流通を支えるサポーターがいれば、反対運動との共存は可能です。
大事なのは、サポーターを得ることです。ゲノム編集トマトは一種のアート作品ですから、たとえて言えば、ユニークな新人歌手をどうやって売り出すかという話と、とてもよく似ています。
ママ美 広報プロデューサー・正美さんなら、どう広報しますか?
正美 ポイントは、「知ってもらう」「親しみをもってもらう」「希望を届ける」です。いきなり新人歌手がデビューしても、そうそう売れるわけがありません。どの新人歌手も、まずは顧客と握手をして、顔を覚えてもらうことから始まります。トマトも同じです。
「人気ぶり」を、プッシュ型で広報すべし
ママ美 なるほど、なるほど。で、具体的には何をやるんですか。
正美 ベンチャー企業の「サナテックシード」は、昨年12月、「ゲノム編集トマトの苗を希望者に無料で配布する」と公表しましたね。これは「えー、そんなことをやるの?」というサプライズ効果があって、大ヒットでした。すでに4000人に迫る申し込みがあり、予想を超える人気ぶりです。となれば、この事実を知ってもらいましょう。
ママ美 会社の公式サイトに掲載すればいいのかな?
正美 それだけだと、サイトに来た人にしか見てもらえません。言わば、見に来てくれるのを待つやり方ですね。それに加えて、より積極的に、情報をプッシュしましょう。
具体的には、「すでに4000人近い人から申し込みがありました。申し訳ありませんが、抽選になるかもしれません」といった緊急リリースを、一刻も早く記者向けに出す必要があります。早急に記者会見を開くのがよいですね。
ママ美 会長や先生が「申し訳ありません。こんなに人気があるとは想定外でした」と会見で、希望者全員に行き渡らないことを陳謝している場面が、ニュースで流れる様子を想像してしまいました。
正美 サプライズ効果があるでしょうね。そして、希望者全員に行き渡らないということは、そのトマトの苗に希少性が生まれたことを意味します。どんなものでも、人は希少価値があると余計に欲しくなりますね。苗の無料配布に対する人気は、希少価値を世間に訴える絶好のチャンスなのです。
リリースを出せば、それがニュースとなり、世間では「意外にもゲノム編集トマトは人気がありそうね」と、事実が噂(口コミ)となって広まっていくでしょう。現にゲノム編集トマトに反対している私の知り合いは「なんで、こんなに申し込みが多いんだ。困っちゃうなあ」と言っています。
ママ美 実は私も、このブログで苗の無料配布を知り、たくさんの応募がきていると聞いて申し込んでしまいました。しかし、抽選で漏れたらショックです。
覚えやすい愛称を公募すべし
正美 そうですよね。まだ不確かですが、現実に抽選になる可能性があります。
それとは別に、もっと親しみをもってもらう作戦も実行しましょう。たとえば、みなに愛されるブランド名(愛称)を付けることです。ゲノム編集トマトの名称は「シシリアンルージュ・ハイギャバ」ですが、やや長くて、覚えにくいです。
シシリアンルージュは、もともとイタリア人が開発した品種です。このシシリアンルージュの品種自体はこれまでも流通していました。そこへ、血圧を下げ、リラックス効果をもたらすギャバ(ガンマ-アミノ酪酸)を多く含むという付加価値がついて、ハイギャバとなったわけですから、もっと言いやすい愛称があれば最高ですね。
ママ美 どんな名前がいいかしら?
正美 ニックネームも募集するのです。採用された人には賞金10万円とゲノム編集トマト5キログラムのプレゼントがよいでしょう。愛称募集もニュースになりますし、決まった時にも、また受賞者がニュースの素材になります。とにかく良いニュースになることは何でもやるのが新人の売り込みには必須です。
ママ美 仮想実験なのに、だんだんおもしろくなってきましたね。
正美 まだまだ仕掛けをたくさん用意しています。次回の後編でさらに披露します。
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