第1回 遺伝子組み換え作物が、地球温暖化を食い止める!

2020年4月30日

 こんにちは、小島正美です。

 きょうは、あの憎まれっ子の遺伝子組み換え作物が、意外にも地球温暖化の防止に貢献する、というお話です。もちろん科学的にホントの話ですよ。

 畑の土には、実は大量の炭素がたまっています。

 どうしてでしょうか。

 炭素と言えば、大気中に漂う二酸化炭素だけのようなイメージがありますが、土の中にもたくさんあります。大気中の炭素(二酸化炭素)は地上の植物によって取り込まれますが、その植物が枯れたりして土の中に入ると、その有機物などに大量の炭素が蓄積されることになります。

  つまり、畑の土は大気中の二酸化炭素を吸収し、いっぱいためこんでいるんです。

  どれくらいためこんでいるんでしょうか。

これがけっこう多くて、「土にたまっている炭素」は、大気にある二酸化炭素に比べ、2~3倍も多いんです。よく森林が二酸化炭素を吸収してためこんでいるといわれますが、実は土壌のほうが多くため込んでいます。

 しかし、この土にたまっている炭素は、ひっくり返して耕すと外に逃げて、大気中の二酸化炭素となってしまいます。 

 だから、大気中の二酸化炭素を増やさないためには、ひとつには土を耕さないで、炭素をできるだけ土のなかにためこめるとよいんですね。世界の陸地面積の約4割は農地が占めるので、この耕すかどうかは大きな意味をもっています。

  でも、農地で耕さないなんてできるの? 

遺伝子組み換え作物の登場

 はい。ここで「遺伝子組み換え作物」の登場です。

 広大な農地で大豆などを作るアメリカの農家のみなさんは、タネを植える前にトラクターで土を耕します。

 これは、生えてきた雑草をひっかいて枯らすためなんです。しかし、土をひっかくと土の中にあった炭素は外に飛び出して逃げてしまいます。土が雨で流れて土の栄養分が失われてしまう危険性もあります。

 ここでもし、

 「雑草は枯らすけど、作物は枯らさない除草剤」

 があれば、それをまけばよいだけですから、畑を耕す必要がなくなります。

  そこで威力を発揮するのが、

 「除草剤をまいても枯れない遺伝子」

を組み込むという遺伝子組み換え技術です。これを生かすと

 「雑草だけを枯らし、作物は枯らさない」ことができるんです。

 たとえば、除草剤に強い組み換え大豆だと雑草が少々生えている畑でも、そのままタネをまけます。そして、作物がある程度成長したところで、さっと除草剤をまく。

 すると、雑草は枯れるが、作物の大豆は枯れないまま収穫できるんです。

  アメリカではもう20年以上前から、この除草剤に強い遺伝子組み換え作物(もちろん国が審査しており、食べても安全ですよ)が作られています。

 私は取材で何度もアメリカへ出かけ、実際に畑を見てきました。

 いつ訪ねても農家の人たちは「遺伝子組み換えのおかげで耕さずにすむようになった」と喜んでいました。


米国・ミズーリ州で遺伝子組み換えのトウモロコシを栽培する農家の男性

 耕さずに済む方法を「不耕起」といいます。これは土を耕すトラクターの運転も不要になるため、二酸化炭素を排出するトラクターの燃料も節約になり、その面でも地球温暖化の防止になりますよ。

 つまり、この不耕起の栽培法が土の中の炭素を守り、地球の温暖化を防ぐわけです。

  アメリカのカリフォルニア大学バークレー校のデービッド・ジルバーマン教授という先生が、2015年に学術誌「グローバル・チェンジ・バイオロジー」で、「遺伝子組み換え作物は、耕さない農業を通じて、土に炭素をためこめるようにした。これは地球温暖化問題の解決に、大きく貢献できる潜在能力をもっていることを示す」と書いています。

 日本の、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)も同様のことを指摘しています。

  日本ではまだ遺伝子組み換え作物が栽培されていないので、こうしたバイオテクノロジー技術と気候変動の関連について議論されることはほとんどありません。

 日本では遺伝子組み換え作物というと、悪いイメージが先行し、みんなから嫌われていますが、そんな嫌われ者が陰ながら地球温暖化の防止に貢献しているんだということをぜひ知ってほしいですね。

 

 今回のレッスンは、地球の土壌にため込まれている炭素量は、大気中の二酸化炭素量よりも2~3倍も多いこと、そして遺伝子組み換え作物は土壌の炭素量を守るのに役立つことを覚えておくことです。