第59回 茎わさび製品の自主回収と大量廃棄、繰り返される悲劇に打つ手なし!

2022年1月24日

こんにちは、小島正美です。どう見ても理不尽な商品の自主回収が行われています。いくら法律違反とはいえ、各企業で働く人たちが汗水たらして製造した食品を、いとも簡単に廃棄処分してよいのでしょうか。

9月に入って、「おむすびころりん本舗」や「はごろもフーズ」など約20社が、わさび茶漬けやふりかけなどの自社製品を次々に自主回収しています。これらの商品は中国から輸入した「塩蔵茎わさび」を原料に使っていますが、その茎わさびにヨウ素が添加された食塩が使われていたのです。

ヨウ素自体は必須栄養素で何の問題もないものですが、運悪く、日本では食品衛生法によって、ヨウ素は食品添加物として認められていないのです。つまり、日本ではヨウ素を添加した食塩は食品衛生法違反となり、流通できないのです。その結果、この塩蔵茎わさびを使っていた各種製品が自主回収となったわけです。回収された製品は焼却されます。

ヨウ素が添加された食塩は、海外では流通しており、世界を見渡せば、ヨウ素不足に悩む国が多いのが現状です。

胎児期から幼年期において、ヨウ素が不足すると正常な発育に悪影響を及ぼすことが分かっています。甲状腺ホルモンの大切な構成要素ですから、欠乏すると甲状腺腫になるリスクもあります。ですから、中国や米国、スイス、豪州、ニュージーランドなどではヨウ素を食品添加物として認めています。豪州やニュージーランドではパンにも添加されています。国連児童基金のユニセフはヨウ素添加塩の普及を推進しているほどです。

しかし、日本はヨウ素の多い昆布などを食べますので、ヨウ素不足になることはまずありません。だから、ヨウ素を食品添加物として申請する事業者はいなく、日本では未承認となっています。そういう意味では、法の不備が今回の事件を引き起こしたといってもよいでしょう。

過去に「国際汎用添加物」に指定し、回収を防いだ事例あり

何か良い手立てはないのでしょうか。

実は、今回のブログは、すでにこの問題をヤフーニュースに書いた井出留美さん(食品ロス問題ジャーナリスト)の3回にわたる記事のあとを追う四番煎じです。いや、食品表示などに詳しい森田満樹さんもFOOCOMメールマガジン(9月17日)で書いていますので、五番煎じの記事ですね。

井出さんや森田さんの記事を見ていて思うのは、厚生労働省から「食品廃棄を減らすために、なんとか解決したい」という必死さ、真剣さが伝わってこないことです。この問題は他人事意識では絶対に解決しません。

井出さんの記事によると、中国から塩蔵茎わさびを輸入した東海澱粉株式会社(静岡市)が静岡市保健所と協議して、自主回収を決めたそうです。そして、井出さんが厚生労働省監視安全課に聞くと、「自治体から相談があれば、相談にのるが、こうしなさいと命令することはない。自主回収については、自治体が命令、判断することになっています」との回答です。法律に違反している以上、保健所の担当者が『回収しなくてもよい』とはまず言いません。保健所に相談した時点で自主回収は当然のこととなります。

農水省を中心に、国は食品ロス削減推進法まで発効させ、無駄な回収を抑えて食品廃棄を減らしましょうと大々的に運動を展開しているのに、打つ手がないとは本当に残念です。

しかし、過去に国が大英断を振るったこともあります。

2002年に海外から輸入される食塩にフェロシアン化物(固結防止目的の食品添加物)が含まれている事件が発生しました。日本ではフェロシアン化物は未指定の添加物だったのです。この国際的に広く使用されている添加物を法律違反として取り締まれば、大量の食品の回収だけでなく、国際的な批判を浴びることも予想されました。そこで、国は事業者からの申請がなくても、「国際汎用添加物」に指定し、使用や流通を認める決定をしました。

国際汎用添加物は2019年1月8日現在、甘味料のサッカリンカルシウムなど42品目あります。国際的な整合性を図る意味でも、ヨウ素を「国際汎用添加物」に指定すればよいのですが、日本人はヨウ素を十分に摂取しているので、おそらく難しいでしょうね。

いろいろな要因を考えるほど国は動けなくなる

この件だけに限れば、回収は不要のように思えますが、名案はありません。

厚労省もいろいろと思案したのだと思いますが、森田さんの記事にもあるように、

「法律違反は明確です。自主回収をしなくてもよいという根拠はどこにもない」

「法律違反なのに自主回収不要だと言えば、厚労省は『危ない中国産品に甘い』と消費者団体から批判される。メディアからもたたかれる可能性が出てくる」

「健康被害がないといっても、絶対に安全とは言いきれない」

「そもそも輸入会社の不注意で起きた自主回収なので、不注意を直せばよいだけのことだ。しっかりと管理している会社もある」

「一度、特例を認めると歯止めが利かなくなる」

などなど、いろいろな要因を考えていくと、結局、国は「法律違反なので、自主回収やむなし」という現状肯定的な姿勢に落ち着くのでしょうね。

最後に、わさび茶漬け製品などをつくる「おむすびころりん本舗」のホームページの社告を見てみましょう。

「当該の製造工程で使用する食塩の配合は8%で、対象製品への配合割合は1000分の1未満と極めて微量です。喫食しても健康被害につながる可能性は非常に少なく、健康被害も確認されておりませんが、当該品の販売を休止し、自主回収させていただきます」

最後の文章はせめて「泣く泣く、自主回収させていただきます」としてほしいですね。

この種の不条理な自主回収は過去に何度も起こっています。私はかつて現役の記者のとき、「捨てるなら、私が食べます。すべての責任は私が負います。それなら、自主回収食品をもらって食べることは可能ではないでしょうか」と厚労省の担当者に食い下がったこともありました。これに対し、「食品衛生法では、自主回収食品をタダで他人に渡すのも、違法です」と言われ、あっけなく撃沈しました。法の不備をどうするのか。主要な新聞やNHKがもっと報道に参戦し、国民的な議論を期待したいですね。