第6回 テラスハウス・木村花さんを追い込んだのは誰か
食に関する週刊誌報道との共通点
こんにちは、小島正美です。このブログ記事は、基本的には食と健康に関するお話が中心ですが、きょうは、フジテレビの人気番組だった「テラスハウス」に出演していて、急死した女子プロレス選手の木村花さん(22)の事件と週刊誌報道との共通点についてお話しします。
ママ美 えっ、全く異なる分野なのに、いったいどういう関係があるのでしょうか。
正美 確かにだれだって、そう思うでしょうね。でも、大いに関係があるんです。テレビなどを見ていると、木村さんを誹謗中傷した匿名の人たちの悪意に満ちた投稿を非難するコメンテーター諸氏の声が多く見られました。そして、匿名で他人を攻撃したり、あざ笑うことができるSNSの在り方も問題にされていましたね。
ママ美 それだったら、私もそう思いますよ。
正美 だけど、私が問題にしたいのは、テレビ局の報道の在り方です。テレビ番組の最大の目的は高い視聴率を獲得することです。そのためには、視聴者を感動させ、涙を流させ、激怒させねばなりません。テラスハウスの番組はどんな展開だったのでしょうか。簡単に言うと、同居するメンバーが誤って木村さんのコスチュームを洗濯機に入れて洗ってしまうトラブルが発生します。それに対して、木村さんがものすごく激怒して、強く非難する場面が出てきたそうです(私は直接、その番組を見ていませんが)。これを見た視聴者が木村さんに非難中傷の投稿をぶつけたという展開です。
なぜ、問題部分をカットできなかったのか
ママ美 視聴者を感情的にカッとさせるような描写、映像を流したことが問題ということですか。
正美 そうです。この番組は、番組スタッフが不特定多数の人に見せるためにつくっているもので、自然発生したものではありません。つまり、テレビ局スタッフが意図的に編集した映像なのです。さらに言うと、視聴者がカッとなるように、あえて激情を誘う描写を入れて放送したわけです。そういう観点でいえば、この番組は狙いが成功したわけです。いや成功し過ぎて、視聴者の激烈な感情を引き出し、死をもたらす結末を生み出したのです。私がその場面を見ていても、おそらく同じような敵意むき出しの感情に染まり、非難の投稿をした可能性があります。演出に、はまったのは視聴者です。今にして思えば、その部分がカットされて配信されていれば、今度の事件は起きていなかったと断言できます。
ママ美 テレビの映像って怖いですね。
正美 その怖さをもたらすのは何でしょうか。ここからは推測も含めてですが、スタッフたちは結局、「おもしろければよい」という判断で番組をつくっていたのではと思われることです。報道の使命を帯びながらも、おもしろいものをつくろうという発想が今回の悲劇の原因です。つまり、視聴者を感情的に興奮させる描写をあえて入れて、視聴率を稼ごうという、いつもの思考癖(習慣)が熟慮なく出てしまい、今度の悲劇を招いたというのが、メディアの立場にいる私の見立てです。
たとえバラエティ番組といえども、問われるべきはテレビ局の報道の在り方です。逆からみれば、視聴者は「バラエティ番組は、激情を誘うおもしろ追求型指向でつくられている」ことを知ることが必要です。
週刊誌も激情誘引型報道の典型
ママ美 なるほど。でも、テレビ局の報道姿勢を問題にする見方はあまり聞きませんね。
正美 ここからが本題です。こういうバラエティ番組のような報道は、実は週刊誌でも日常的に行われているということです。たとえば、週刊新潮や女性セブンがこのところ、農薬や食品添加物、遺伝子組み換え作物をあらん限りの力で非難する記事を載せていますが、これも似たような構造だと知ることが大事です。
このブログは特定のメディアを非難する場所ではありませんが、名前を出さないとどんな媒体かが分からないのであえて出しました。これらの記事を読んでみて、まず感じるのは、読者を感情的に興奮させるような表現、用語を使って煽っていることです。そこに登場する専門家はいつも同じ偏った顔触れ(本当に、本当に、以前からいつも同じ顔触れです)で、食や健康の科学者が読めば、すぐに「この記事はおかしい」と指摘するような内容です。
ママ美 大手出版社の媒体が、そんなにひどい記事を出しているとは信じられません。
正美 ママ美さんのような心やさしい人が多いから、だまされてしまうんですね。
たとえば、「食に対する日仏の意識の違い 日本は様々な分野で緩い状況に」と題した女性セブン(4月23日号)の記事は、農薬や遺伝子組み換え作物などについて書いていますが、私が一読して、すぐに間違いだらけと分かるくらいに粗雑な内容です。食の専門家に読んでもらったら、すぐに「間違いだらけ。ひどすぎる」のメールが返ってきました。ちょっと調べれば、すぐに分かる間違いをそのまま載せていることが容易に分かるからです。仮に記者が勉強不足のまま書いたとしても、原稿をチェックするデスクや編集長はどこをどうチェックしているのか!とその能力を疑いたくなるほど稚拙な記事です。
私がこんな原稿を書いて新聞社のデスクに出稿したら、間違いなく、ズタズタに直されるか、ボツ(記事に採用されないこと)になるだろうと思います。
ママ美 新聞社は厳しいんですね。
正美 私も新聞記者出身なので、新聞社でも勉強不足の記者やデスクがいることは知っています。しかし、この女性セブンの記事を通すほどチェック能力の低い記者はいないと思います。
ところが、週刊誌はそういう記事が堂々と流れているのです。こういう記事は自然発生では決して生まれません。あのフジテレビの「テラスハウス」と同じように、記者やデスクが自らの価値観、思考法、営業的狙いで編集したものだということです。つまり、読み手を怖がらせたり、不安にさせるような記事をあえて編集してつくっているのです。科学的な根拠があればよいでしょうが、読んですぐに間違いが分かるような粗悪品をつくっているわけです。
週刊誌に誠実さは感じられるか
ママ美 そんなにひどいのでしょうか。
正美 私は過去に何度か、週刊誌やタブロイド夕刊紙に疑問点を書いて手紙を送ったことがありますが、一度として返事は来ませんでした。個人的な体験だけで一般化するのは言い過ぎかもしれませんが、週刊誌はそもそも読者に正確な情報を流そうという気持ちがあるとは思えません。そのことは、見出しをみれば、すぐにわかりますね。週刊誌の記事を読んでつくづく感じるのは、科学者も含めてみんなから愛され、支持されるような情報を読者に届けたいという熱意、誠実さ、心の温かさ、謙虚さが全く感じられないことです。
ママ美 言われてみれば、イメージ的にも誠実さは感じられないですね。
正美 そうですよね。そういう私の長い経験を積み重ねてきた結果、今回のような「テラスハウス」問題を見たとき、視聴者や読者の不安や興奮を誘発させることを狙いにしている点は、テレビも週刊誌も共通しているのではないか、と考えるわけです。木村さんを匿名で非難した人はもちろん責められてしかるべきですが、そういう匿名の非難を誘発させた主な原因は、テレビ局の番組作りの姿勢、演出だったのです。「遺伝子組み換え作物を食べるとがんになる」といったふうに、全く根拠のない記事を載せ、裏の事情を何も知らない読者を極度の不安にさせる女性セブンのような週刊誌も、同じ穴のムジナ(一見関係がないようでも実は同じ仲間という意味)なのです。週刊誌の記事は記者たちの「演出」だと思って読みましょう。
きょうのレッスンは、テレビの情報番組を見るときは、スタッフたちの「視聴率を稼ぎたいという意図と演出」が加味された映像を見させられているという自覚をもつこと。そして週刊誌の記事(食や健康など科学にかかわる記事)を読むときは、記者たちがあえて大げさな表現を使って偏った内容をつくり上げ、読者の感情を揺さぶろうとする作為的な物語が記事の本質だと自覚すること、この2つを覚えておくことです。
次回は、ニュースで人々を怖がらせる、とっておきのテクニックを伝授します。
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